『よるべナイター』
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- プロデュース:深井順子
- 作・音楽:糸井幸之介
- 演出:深井順子 糸井幸之介
- 野球指導:古田敦也
- 振付:木皮成
- 照明:松本永(eimatsumoto Co. Ltd.)
- 音響:佐藤こうじ(Sugar Sound)
- 出演:深井順子 日髙啓介 鯉和鮎美 高橋義和 澤田慎司 新部聖子 岡本陽介(以上、FUKAIPRODUCE羽衣)伊藤昌子 西田夏奈子 キムユス(散歩道楽) 中林舞 福原冠(範宙遊泳)橋本淳 髙山のえみ 森下亮(クロムモリブデン)
- 劇場:青山円形劇場
- 評価:☆☆☆☆★
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青山円形劇場を野球場に見立てる。俳優たちは野球のユニホームを着て、実況中継に合わせて打席あるいはマウンドに立つ。
私の座席はセンターの最前列、通路脇だった。俳優たちがすぐ目の前で演技をし、観客席の脇、後ろを通り過ぎて行く。この近い距離がたまらない。エロチックでコケティッシュな鯉和鮎美さんがすぐ目の前で官能的なポーズをとり、性の喜びに喘ぎ声を上げる。
音響がいまひとつで歌詞が聞き取れないところがあった。しかしこのスペクタクル全体がもたらしてくれた感動を思うと、そんなことはたいした問題ではなかった。すぐ目の前で全力で表現する俳優たちのパフォーマンスに心打たれた。名曲、《果物夜曲》を深井淳子と日髙啓介が歌う。これまでYoutubeの映像でしか聞いたことがなかった曲だ。
都会生活で心細い思いをした経験がある人間はみな『よるべナイター』を見に来るがいい。
もう何年も もう何年も
都会でひとりで生きてる
つい先日までママのおっぱい吸っていたのに
もう何年も もう何年も
いーことなんかない
今日×死ぬまでの日数は無常の人生
私たちは都会の夜をどんな思いを抱えて、どんな妄想とともに、 やりすごしてきただろうか。羽衣は私たちが宿命的に抱えている孤独を思い出させてくれる。そしてその孤独を全力のパフォーマンスによって作り出される甘美な幻想でいやしてくれる。羽衣のステージを見ていると、そのだらしなくて、優しい甘美さに、心身が溶けてしまいそうな感覚を覚える。みじめでつまらない私たちの人生が、かけがえのない宝であるように感じさせてくれる。
何とも言えぬ幸福感に包まれたまま、半ば呆然として劇場を出た。知り合いの顔が何人かあったけれど、声を掛けることもなく。帰り道、渋谷駅に降りる宮益坂にある松屋にひとりで入り、牛丼を食べた。そういうセンチメンタルな陶酔に浸りたくなるような作品だった。