閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

恋人たち(2015)

恋人たち(2015)

koibitotachi.com


上映時間 140分
初公開年月 2015/11/14

  • 監督: 橋口亮輔 
  • 企画・プロデューサー: 深田誠剛 
  • 脚本: 橋口亮輔 
  • 撮影: 上野彰吾 
  • 美術: 安宅紀史 
  • 衣裳: 小里幸子 
  • 主題歌: 明星/Akeboshi 『Usual life_Special Ver.』
  • 出演: 篠原篤(篠塚アツシ)、成嶋瞳子高橋瞳子)、池田良(四ノ宮)、安藤玉恵(吉田晴美)、黒田大輔(黒田大輔)、内田慈(女子アナ)、山中聡(四ノ宮の友人 聡)、光石研(藤田弘)
  • 映画館:テアトル新宿
  • 評価:☆☆☆☆★

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三人の「恋人たち」(鉤括弧付で記したい)は、希望の持てない散文的な生活を送っている。ままならぬ無慈悲な現実と折合いをつけ、何とか人生の帳尻合わせをすることで人は生きていける。そんな人生でも生きている意味はある。そうしたことをまっすぐ優しく伝える傑作だった。ただ振り返ってみると篠原のエピソードは少々特殊過ぎるようにも感じる。三人の報われない恋人たちのエピソードで私が一番好きなのは、成嶋瞳子の恋だ。

黒田大輔、安藤玉恵、内田慈という小劇場でなじみの俳優たちが、素晴らしい存在感を示して、物語のなかに収まっているのも嬉しかった。

 

ベテラン(2015)

ベテラン(2015) VETERAN

veteran-movie.jp


上映時間 123分
製作国 韓国
初公開年月 2015/12/12監督: リュ・スンワン 

 

  • 脚本: リュ・スンワン 
  • 撮影: チェ・ヨンファン 
  • 音楽: パン・ジュンソク 
  • 出演: ファン・ジョンミン (ソ・ドチョル)、ユ・アイン (チョ・テオ)、オ・ダルス (オ チーム長)、キム・シフ (ユン刑事)、ユ・ヘジン (チェ常務)、チャン・ユンジュ (ミス・ボン)、オ・デファン (ワン刑事)
  • 映画館:シネマート新宿
  • 評価:☆☆☆☆★

 

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刑事アクションものには、殆ど食指が動くことがないのだが、twitterの私のTL上での絶賛ぶりに好奇心をそそられ見に行った。久々に韓国映画を見てみたくなったというのもある。典型的な刑事アクションものといっていい。勢いのある導入部の展開は素晴らしかったけれど、この手の娯楽作品は私のジャンルではないなあと思いながら見ていたのだけれど、プロローグ的部分が終わって本編的内容に入るとぐいぐいと引き込まれてしまった。

持てる者の横暴と持たざる者の悲惨という人の世のおぞましさ、切なさを描く主題が物語の基本骨格としてきっちり決まっている。主人公のベテラン刑事の妻が、買収されそうになったとき、思わず心が動いてしまった、と告白する場面には、金に流される弱さは、貧しき立場の者にときに強力に左右されてしまう現実が反映されているように思え、思わずほろりとなった。

この作品の成功は、悪役の徹底した極悪非道ぶりである。巨大企業の跡取りであるスマートな風貌の青年が、その金と権力にあかせて、卑劣な行為を行う。韓国人俳優の強い個性、強い演技がたまらない。類型的ながら、あらゆる登場人物が濃くて、魅力的だ。

密集した街中を走り抜けるスリリングなカーアクション、骨が折れる場面もしっかり映し出す暴力描写のエグさ、容赦なさも見事。こうした荒々しさも韓国映画っぽいエネルギーに満ちている。

クリスマスイブのがら空きの映画館だったが、壮絶かつ痛快な刑事アクションの傑作に大いに満足した。

アリスのままで(2014)

アリスのままで(2014)STILL ALICE

alice-movie.com


上映時間 101分
製作国 アメリカ
初公開年月 2015/06/27

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記憶だけでなく、知性、人格まで失われていく若年性アルツハイマーに罹った女性大学教員の話。病状の進行に従って表情がどんどん虚ろになっている様子がうまく演じられていた。最後が「LOVE」で終わるのは感動的。最後に残るのは愛であって欲しい。

サンドラの週末(2014)

サンドラの週末(2014)DEUX JOURS, UNE NUIT

www.bitters.co.jp


上映時間 95分
製作国 ベルギー/フランス/イタリア
初公開年月 2015/05/23

  • 監督: ジャン=ピエール・ダルデンヌ 、リュック・ダルデンヌ 
  • 製作: ジャン=ピエール・ダルデンヌ 、リュック・ダルデンヌ 、ドゥニ・フロイド 
  • 脚本: ジャン=ピエール・ダルデンヌ 、リュック・ダルデンヌ 
  • 撮影: アラン・マルコァン 
  • 美術: イゴール・ガブリエル 
  • 衣装: マイラ・ラマダン・レヴィ 
  • 編集: マリー=エレーヌ・ドゾ 
  • 出演: マリオン・コティヤール(サンドラ)、ファブリツィオ・ロンジョーネ(マニュ)、クリステル・コルニル(アンヌ)
  • 映画館:早稲田松竹
  • 評価:☆☆☆☆

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休職していたサンドラが復職しようとした週末、会社から解雇通知が届く。この解雇は職場の同僚の投票によって決まったというのだが、その投票が正当なやり方で行われていないということで、週明けの月曜に再投票が行われることに。サンドラは自らの復職のために、同僚の家を回って、投票を依頼する。過半数の票を獲得できれば彼女は復職できる。しかしサンドラが復職すると、ボーナスがなくなってしまう。

同僚の投票によって決まるというのはフランス(ベルギー?)流なのか? こんなときは、通常なら労組を通じて労使交渉して、解雇の撤回を求めるしか手段はないと思うが。当事者が一人一人同僚を回って、自分の復職を求めるというのは、つらすぎる。サンドラが猛烈なストレスで体調を崩してしまうのも当然だ。自分が復職すれば、ボーナスがでなくなってしまう。彼女の同僚たちも皆それぞれ貧しい生活をしていることが、映像から伝わってくる。結末はダルデンヌらしいリアリズム。サンドラの雇用継続に投票できなかった人たちが、より困っている弱い人たちだというのがとてもきつい。弱い者が弱い者をつぶし合うという痛ましい現実が提示される。しかし自らのために、当事者として精一杯行動したサンドラの表情は晴れ晴れとしていたのがとても印象に残る。

セッション(2014)WHIPLASH

セッション(2014)WHIPLASH

session.gaga.ne.jp

 

  • 上映時間 107分
  • 製作国 アメリカ
  • 監督: デイミアン・チャゼル 
  • 脚本: デイミアン・チャゼル 
  • 撮影: シャロン・メール 
  • 編集: トム・クロス 
  • 音楽: ジャスティン・ハーウィッツ 
  • 音楽監修: アンディ・ロス 
  • 出演: マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、ポール・ライザー、メリッサ・ブノワ 
  • 映画館:早稲田松竹
  • 評価:☆☆☆☆

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痛快・爽快な音楽映画だった。サディスティックな鬼教員にいたぶられ、追い詰められながら音楽家として成長していく若者の話。スポーツや音楽や芸能の世界では、こうした嗜虐的で暴力的なやりかたで、弟子を追い込んでいく鬼のような人間は実際にかなりいそうな気がする。ただしそのほとんどは自分の才能への自信のなさゆえに、教える者-教えられる者の権力関係を利用して、人を支配することに喜びを感じているに過ぎない人間であるようにも私には思える。

最後の「逆転」の演奏場面の緊迫感は秀逸。引き込まれた。

FOUJITA(2015)

FOUJITA(2015)

foujita.info

  • 上映時間:126分
  • 製作国:日本/フランス
  • 初公開年月:2015/11/14
  • 監督: 小栗康平 
  • 製作: 小栗康平井上和子クローディー・オサール 
  • 脚本: 小栗康平 
  • 撮影: 町田博 
  • 美術: 小川富美夫 、カルロス・コンティ 
  • 音楽: 佐藤聰明 
  • 照明: 津嘉山誠 
  • 録音: 矢野正人 
  • 出演: オダギリジョー中谷美紀アナ・ジラルド、アンジェル・ユモー
  • 映画館:新宿武蔵野館
  • 評価:☆☆☆

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前半が藤田のパリ時代、後半が太平洋戦争の時代、日本にいる藤田。洗練された趣味の美しい絵はがきを思わせる映像が連なる。波瀾万丈の藤田の人生は小栗の自己陶酔的な映像美の枠組みとして利用されていて、ドラマは描き出すことは敢えて避けられている。訥々した単調で静かな台詞の語りかたの作為性に白けた気分になる。美しい絵はたくさんあったが、実にひとりよがりで退屈な映画だった。

Lilies - Les Feluettes (1996)

Lilies - Les feluettes (1996)

  • 95 min 
  • 1952: Bishop Bilodeau visits a québécois prison to hear the confession of a boyhood friend jailed for murder 40 years ago. The inmates force the prelate to watch a play depicting what ... See full summary »
  • Director: John Greyson
  • Writers: Michel Marc Bouchard (based upon the play by: "Les Feluettes, ou La Répétition d'un drame romantique"), Michel Marc Bouchard (screenplay)
  • Stars: Ian D. Clark, Marcel Sabourin, Aubert Pallascio
  • 時間:91分
  • 評価:☆☆☆☆

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カナダのケベックの劇作家、ミシェル・マルク・ブシャールの戯曲「やせっぽちあるいはロマンチックなドラマの稽古」を映画化したも。映画の脚本にもブシャールは関わっている。監督のグレイソンは英語圏カナダの監督である。

出演俳優は男性のみ。女性役も男性が演じる。作品は三重の劇中劇構造になっている。まず一番外側の枠、これは1952年の刑務所内の礼拝堂だ。ビロドー司教が受刑者の告解のためにこの刑務所に呼ばれる。告解するのは40年前に司教と同じ学校に通っていた同級生のシモンである。シモンは放火殺人事件の犯人として服役していた。しかしこれはえん罪だった。ビロドーはこの事件に関わりを持っている。

告解のために刑務所にやって来たビロドー司教を、受刑者と刑務官は監禁する。シモンの指示のもと、彼らはビロドー司教に40年前の出来事を再現した演劇作品を上演して見せる。この1912年のケベックの北方の町、ロベールヴァルの物語が第二の枠となる。その作品は十代の若いシモンもビロドーはこの演劇の主要な登場人物だ。40年前の情景と1952年の刑務所の場面が交錯し合う。ビロドーはかつての自分と同級生たちの物語を見せられながら、彼だけが知っている事件の真相の告白を迫られる。

第三の枠はこのローベルヴァルの学校で、シモンと彼の友人、ヴァリエが演じることになっていたダンヌンツィオ『聖セバスチャンの殉教』の一場面だ。弓矢に射貫かれる聖セバスチャンと射手のサヌエは、シモンとヴァリエの関係に重なり合う。

20世紀初頭、北方にある孤立した場所ロベールヴァルと遠く離れた華やかな都、パリの関係、カトリック教会が厳しく社会倫理を監督していた時代における同性愛の問題、美しく若い二人の青年の繊細でロマンチックな愛、その愛から取り残された者の絶望。いくつかの主題が三層構造の物語のなかで複雑に絡まり合い、美しいハーモニーを奏でる。

 

Mommy/マミー(2014)

Mommy/マミー(2014)

  • 上映時間:139分
  • 製作国:カナダ
  • 初公開年月:2015/04/25
  • 監督: グザヴィエ・ドラン 
  • 製作: ナンシー・グラン 、グザヴィエ・ドラン 
  • 脚本: グザヴィエ・ドラン 
  • 撮影: アンドレ・トュルパン 
  • プロダクションデザイン: コロンブ・ラビ 
  • 衣装デザイン: グザヴィエ・ドラン 、フランソワ・バルボ 
  • 編集: グザヴィエ・ドラン 
  • 音楽: ノイア 
  • 出演: アンヌ・ドルヴァル(ダイアン・デュプレ(ダイ))、スザンヌ・クレマン(カイラ)、アントワーヌ・オリヴィエ・ピロン(スティーヴ・デュプレ)
  • 映画館:高田馬場 早稲田松竹
  • 評価:☆☆☆☆★

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3人の俳優の演技、アンサンブルがとてもいい。とりわけADHDの少年役、スティーヴの演技はいったいどういう演出指示を行ったのだろう?

時折感情を爆発させ、自滅へまで突き進むADHDのスティーヴは、閉塞した社会のなかで自分を押さえつけられている私たちのすがたの象徴だ。その奔放さ、過激さ、破壊力ゆえに、彼はそれを私たちを魅了する。

1対1の窮屈な画面が、通常の長方形に押し広げられるシーケンスが二か所ある。それはほんの束の間の時間過ぎない。しかしそのかりそめの時間の解放感はたまらない。広げられた画面はすぐにまた1対1に閉じられてしまうのだけれど。

祈りのような希望は、すぐに押しつぶされてしまう。しかし叩き潰されても、消滅してしまうわけではない。またしぶとく湧き上がっていく。現実の無慈悲とそこでもしぶとく再生していく希望が両方描き出されている。

『マッドマックス2』『マッドマックス 怒りのデスロード』

マッドマックス2(1981) MAD MAX 2

  • 上映時間 96分
  • 製作国 オーストラリア
  • 初公開年月 1981/12/
  • 監督: ジョージ・ミラー 
  • 製作: バイロンケネディ 
  • 脚本: テリー・ヘイズ 、ジョージ・ミラー 、ブライアン・ハナント 
  • 撮影: ディーン・セムラー 
  • 音楽: ブライアン・メイ 
  • 出演: メル・ギブソン(マックス)、ブルース・スペンス(ジャイロ・キャプテン)、ヴァーノン・ウェルズ(ウェズ)、マイケル・プレストン(パッパガロ)、ヴァージニア・ヘイ(女戦士)、エミル・ミンティ(少年)、マックス・フィップス(トーディ)、ケル・ニルソン(ヒューマンガス)
  • 評価:☆☆☆★

マッドマックス 怒りのデス・ロード(2015) MAD MAX: FURY ROAD

  • 上映時間 120分
  • 製作国 オーストラリア
  • 初公開年月 2015/06/20
  • 監督: ジョージ・ミラー 
  • 製作: ダグ・ミッチェル 、ジョージ・ミラー 、P・J・ヴォーテン 
  • 製作総指揮: イアイン・スミス 
  • 脚本: ジョージ・ミラー 、ブレンダン・マッカーシー 、ニコ・ラソウリス 
  • 撮影: ジョン・シール 
  • 衣装デザイン: ジェニー・ビーヴァン 
  • 編集: マーガレット・シクセル 
  • 音楽: ジャンキー・XL 
  • 出演: トム・ハーディ(マックス)、シャーリーズ・セロン(フュリオサ)、ニコラス・ホルト(ニュークス)、ヒュー・キース=バーン(イモータン・ジョー)
  • 評価:☆☆☆☆
  • 映画館:高田馬場 早稲田松竹

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私の周辺のシネフィルのあいだでは、この夏に公開された「マッドマックス 怒りのデス・ロード」が圧倒的な支持だった。早稲田松竹で「マッドマックス2」との二本立て。私は初「マッドマックス」だった。

二本連続で見て、ひたすら破壊的で非現実的なカーチェイス・アクションが続くのだけれど、退屈はまったくしなかった。しかし映画としての感興を存分に味わったかというとそうでもない。「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のほうが私は面白かった。作り込まれた映像、カーチェイスの場面の趣向の豊かさ、分厚さは圧巻。しかしこの種の近未来終末的世界を舞台とする作品群には、自分の嗜好としていまひとつ乗れない。SF的な世界がいつの頃か自分としっくり合わなくなってしまった。凄い作品だなとは思うけれど、その世界観のディテイルについていろいろ想像力を巡らせて語りたくなるという風にはならない。SF的なものを楽しむ感性が自分には乏しいのだ。

 

渦 Mealstorm(2000)

渦(2000) MAELSTROM

  • 渦 官能の悪夢(ビデオ題)
  • 上映時間:86分
  • 製作国:カナダ
  • 初公開年月:2001/07/28
  • 監督: ドゥニ・ヴィルヌーヴ 
  • 製作: ロジェ・フラピエ 
  • リュック・ヴァンダル 
  • 脚本: ドゥニ・ヴィルヌーヴ 
  • 撮影: アンドレ・ターピン 
  • 音楽: ピエール・デロシュール 
  • 出演: マリ=ジョゼ・クローズジャン=ニコラ・ヴェロー 、ステファニー・モーゲンスターン
  • 評価:☆☆☆☆

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「水」のイメージを通奏低音に、若くて美しい女性の退廃と孤独を描き出す。調理のため殺される運命にある魚のグロテスクな映像が繰り返し現れ、それが女の精神状態を象徴している。事業家として注目を集めていた25歳の女性だが、実生活では中絶を繰り返し、生きる意味を見失い、呆然とした状態で退廃の日々を過ごしている。事業の取引に大きな損害を与えたが、それに対する処理もおざなり。このため兄である社長に事業を閉め出され、彼女は居場所を失う。そんなときに魚市場の仲買人の年老いたノルウェー移民を車ではねてしまう。彼女は被害者を放置したまま、その場から逃げた。仲買人は自宅まで戻るものの、その事故での怪我が原因で死んでしまう。

女は車を海に沈めて証拠隠滅を図るが、罪の意識に押しつぶされそうになっている。新聞記事で自分がひき殺した老人が火葬されることを知り、火葬場に向かう。するとそこで老人の息子と会った。息子に促されるまま、遺品整理や葬儀に彼女は出席する。

老人の息子と彼女は愛し合うようになる。彼女は罪の意識に耐えられず、自分が彼の父をひき逃げしたことを告白する。息子はその告白に大いに動揺する。

女性の心理の反映である水のイメージ、陰鬱な青色の画面が印象的な作品だった。