関川夏央(講談社文庫,2004年)
評価:☆☆☆★
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
18の短編集.皮肉でペーソスがあって気障な短編.その格好のつけ方,ひねくれた枯れ方には反発と愛着の両方を感じる.
「フランス」文学にまつわるエピソードがいくつかあったのが意外.60,70年代に,文学周辺で青春をすごした人間たちにとってのフランスの関わりかたを,かいま見ることができた感じ.
「″おフランス″について」でフランス神話の衰退と会社員社会の崩壊をからめているのには納得し難い.いくらななんでもねぇ.「ミラボー橋」は詩の一節の引用に泣く.うーん,こんなせつなくいい詩だったんだなぁ,と今更思う.
山田風太郎の晩年を描いた作品が二編.その老いの描写の寂しさが心にしみる.
関川夏央は何年か前から早稲田の文学部で客員教授をやっている.僕が助手をやっていた頃に就任が決まった.彼の著作のほとんどを読んでいたので心が多少ときめいたが,結局話しかける機会はなかった.もっとも機会があったとしても,何を話していいものやらという感じだろうが.大学教員としての関川の姿は,いしいひさいちが各作品の扉に掲載しているマンガで戯画化されているが,この短編集の中にもいくつかそうした教員としての己(の分身)を描いたものがあった.関川の大学教授に対するロマンティズムと劣等感を読み取ることができるのが面白い.大学の内部をずっと観てきた人間としては,ちょっとした優越感とともに,揶揄したい気分も.
-
-
- ノート----
-
第16話 ″おフランス″について
60年代初頭『おそ松くん』の「イヤミ」のセリフ.
背景:1950-196年代にかけての日本におけるフランス人気.サルトル,カミュ,サガン.ヌーヴェル・ヴァーグ.←日本とは非交戦であることから「平和」のイメージ.
フランスの文化的イメージの起源:
「ロディン」白樺派によるフランス近代芸術の理解(ロダン,印象派).
島崎藤村などのパリ体験.産業革命の時代だったが,パリは巨大な消費都市でロンドンとは異なり工業が不活発だっため,芸術的側面が強調される.またパリの地理的条件ゆえに多くの外国人亡命者の居住地となり,そうした亡命者が芸術活動の担い手になった.
武者小路実篤『友情』(大正8):当時の白樺派のイデアとしてのパリのイメージ.
芸術と自由とコスポリタニズムの街としてのパリ.「生活」の不在.経済なき芸術至上主義.
「行けばなんとかなる極楽のような場所」.
高度経済成長社会におけるユートピアとしてのパリ.
成長と発展に伴う様々なストレスから解放してくれる理想郷.日本とは利害関係がなく,また経済成長からも自由でありそうな場所.上流階級やサロンで洗練された文化・教養が育ち,大衆化とは無縁の街.
>宝塚『モン・パリ』.堀辰雄の小説.
神話の崩壊:
1985年から1995年.日本における会社員のステータスの揺らぎとともに,パリとフランスは特権的な意味を失う.