- 上映時間:128分
- 製作国:フランス
- 初公開年月:2010/06/12
- 監督:ローラン・カンテ
- 原作:フランソワ・ベゴドー『教室へ』(早川書房刊)
- 脚本:ローラン・カンテ、フランソワ・ベゴドー、ロバン・カンピヨ
- 撮影:ピエール・ミロン
- 編集:ロバン・カンピヨ、ステファニー・レジェ
- 出演:フランソワ・ベゴドー
- 映画館:神保町 岩波ホール
- 評価:☆☆☆☆★
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2008年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞した作品。パリ20区にある公立中学校(College)の国語(フランス語)の一年の授業風景をドキュメンタリー風に映し出す。20区はパリ東部の移民が多く住む地域であり、このクラスの学生たちの人種構成は雑多だ。各家庭の文化的環境もそれぞれ大きく異なる。フランス語でコミュニケーションを取ることのできない親もいる。国語の教師を除き、出演者全員がパリ20区に実際に存在するこのコレージュに通う学生と先生だと言う。国語教師は原作の著者が演じるが、彼もまた現役の国語教師だ。
劇的な演出や物語を排し、移民地域の学校が抱える特有の問題がリアルに描かれる。国語教師は誠実で熱心な教師だと私は思うが、必ずしも理想的で完璧な教師ではない。学生たちとのコミュニケーションの齟齬、教師として学生たちに関わる限界もきっちりと映画のなかで示されてる。原題の「Entre les murs」は「壁の中」を意味する。壁とは外界から学校を隔てる壁、教室の壁を示すのだろう。映し出されるのはもっぱら学校の中であり、そのほとんどはフランス語のクラスである。壁の中での教師と人間たちの姿をもっぱら映し出すことで、その外側にある個々が抱える様々な事情が示唆される。
フランスの公教育の現実の一部をグロテスクに、スキャンダラスに強調したり、あるいはある理想的な教育のあり方を劇的に描いたりはしていない。日本とは異なる学校教育の雰囲気が興味深い。成績判定会議に学生の代表も参加するのには驚いた。
私の好きな場面は同僚の先生の妊娠が報告された後でのシャンパンでの乾杯の場面。マイノリティで言葉の問題もある中国系の学生に対する教員たちの優しい心遣いが感動的だった。移民たちに対して露骨な差別的言動を行う人間が珍しくない一方、ああいった優しさ、善良さもまたフランス人ならではという気がした。もう一つは主人公の国語教員が、同僚に呼び止められ学生を娼婦呼ばわりしたという噂が事実かどうか聞かれたときに、それを否定する場面。あそこで教員が思わず自己弁護してしまう心理は非常によくわかる。誰もが抱えうるこの種の弱さをきっちりと描いていることにこの映画の誠実さを感じた。