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「ことばのために」と称されるシリーズの中の一冊。岩波書店の若手編集者を相手に行ったレクチャーの原稿をまとめたもの。七章の構成で山本周五郎、吉川英治、司馬遼太郎、藤沢周平、山田風太郎、長谷川伸・村上元三、森鴎外の時代小説の世界の特徴をわかりやすく説明する。とりあげられた作家のうち、僕が比較的読んでいるのは山本周五郎と司馬遼太郎の二名ぐらい。僕が読んだことのあるこの二名の作家以外について書かれた章が面白かった。食わず嫌いだったこれらの作家の魅力が明快な筆致で紹介されていて、こちらの読書欲をかきたてる。山田風太郎の章にあるピエール・ロチの『江戸の舞踏会』に関わる文学作品の以外な連なりの指摘は特に新鮮だった。大衆小説についてはまともな論考が少ないように思うので、こういった地に足のついた紹介はとてもありがたい。著者の豊かな読書量には驚嘆する。しかしロチの小説の文学的連なりなど、元ネタになる論文がありそうだが、学術書でないため、しっかりとしたレファレンスが記されていないのが残念。
新しい時代小説家として、著者が最後に紹介している作者の作品も読んでみたい。
吉村昭:森鴎外の歴史小説の正当な継承者。歴史の中から日本と日本人の本質を削りだそうと留守。『冬の鷹』『長英逃亡』。より壮大、よしr悲劇的な「プロジェクトX」、『零式戦闘機』『戦艦武蔵』
佐藤雅美:天保期以降に生きた人々を躍動的に描く。経済に対する目配りも確かな、うまい小説家。『縮尻鏡三郎』シリーズ、『八州廻り桑山十兵衛』シリーズ、『大君の通貨』。『官僚川路聖ばくの生涯』
松井今朝子:歌舞伎の世界を藝と野心と経済を軸に描く。『仲蔵狂乱』
荒山徹:江戸初期の日朝関係。『故郷忘じたく候』。『サラン』。