閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

GO

金城一紀(講談社文庫,2003年)
GO (講談社文庫)
評価:☆☆

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在日朝鮮人の高校生を主人公とする青春小説.この主人公がやたらとかっこがいい.まず滅法喧嘩が強い.強い主体性を持ち,周囲に流されることなく己の信念に基づき行動できる.明敏冷静な観察力と判断力を備える.難解な学術書を読んでその内容を咀嚼する知性を持つ.鍛え上げられた美しい肉体を持っている.音楽や映画などに対して洗練された趣味を持っている.まさにある種の理想的な男子高校生像を具現化したような存在.その上,親は金持ち.たとえ彼が在日朝鮮人であり,差別的な視線や言動にさらされるようなことがあったにせよ,このような「完全」な彼がどうして内面的葛藤に思い悩むことがありえようか.実際小説の中の彼はうじうじとした悩みとは無縁である.既に恵まれすぎるほど恵まれた彼にとって,国家・国籍というイダンティテがどうしてハンデキャップとなりえようか?
日本人との彼女との恋愛が,彼の在日という出自ゆえに,崩壊していく.そこに重なる親友の死.彼は日本人の高校生に殺されてしまった.なぜ主人公に襲いかかる挫折や不幸が,常に差別する側としての日本人がかかわる類型的なものなのだろうか.
あまりにも理想化された主人公と彼のかかえるきわめて図式的な差別体験に大きな違和感を感じる.十七歳の高校生相応なものとして,敢て図式的で陳腐な在日差別のイデオロギーを作者は強調したのだろうか?
在日朝鮮人の若い人間にとってこのようなさわやかな青春小説はカタルシスとなるのか,それとも単なる残酷な夢物語に過ぎないのか.