閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

オペラ座の怪人

  • 上映時間:140 分
  • 製作国:アメリカ/イギリス
  • 監督:ジョエル・シューマカー Joel Schumacher
  • 製作:アンドリュー・ロイド=ウェバー Andrew Lloyd-Webber
  • 原作:ガストン・ルルー Gaston Leroux
  • 脚本:ジョエル・シューマカー Joel Schumacher,アンドリュー・ロイド=ウェバー Andrew Lloyd-Webber
  • 撮影:ジョン・マシソン John Mathieson
  • 美術:アンソニー・プラット Anthony Pratt
  • 衣装:アレクサンドラ・バーン Alexandra Byrne
  • 音楽:アンドリュー・ロイド=ウェバー Andrew Lloyd-Webber
  • 出演:ジェラード・バトラー Gerard Butlerエミー・ロッサム Emmy Rossum,パトリック・ウィルソン Patrick Wilson,ミランダ・リチャードソン Miranda Richardson
  • 場所:豊島園 ユナイテッド・シネマとしまえん
  • 評価:☆☆☆☆★
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ユナイテッド・シネマとしまえんのレイトショー.上映前,やけにロビーに女性が多いなと思えば,今日はレディース・デーだった.『オペラ座の怪人』は先週公開されたばかりの大作なので一番大きな劇場での上映.380人定員の部屋だったが入りは50人いるかいないか.
席の位置は最高で,スクリーンも巨大.

上映直前,期待で胸がふくらんで気分が高揚しているのを意識する.僕はこの作品の舞台を1991年春にロンドンで観た.ロンドンの劇場のチケット販売システムがわからぬまま,当日券を買いに劇場に出かけ,長い行列にチケットを買えるかどうか不安を感じていたときに,寄ってきたダフ屋からチケットを購入.定価の二倍程度の値段だったと思う.細部は全く覚えていないのだが,メロディーの美しさと演出の迫力は強く印象に残った.
僕が『オペラ座』を観たのはこれ一回きり.その後,この作品のロックオペラ版翻案の『ファントム・オブ・パラダイス』を観たものの,今日の映画鑑賞は10年以上ぶりのこの作品との再会である.

オークションに出された巨大なシャンデリアがぐわっと釣り上げられる時に,時間が一気に物語の時代に遡り,画面がモノクロからカラーになり,廃虚のオペラ座の内装がかつての輝きを取り戻す印象的なオープニング.このオープニングを観て,僕はかつての舞台も思い出した.そうあの時も,オープニングで巨大なシャンデリアがつり上がる圧倒的なシーンで一気に作品世界に引き込まれたのだ.僕は舞台に向って右上方のバルコニーからこのミュージカルを観ていた.

話は濃厚なロマンチシズムに満ちた三角関係のロマンス.そこに音楽芸術の悪魔的側面を示すテーマや舞台論・演劇論に関わるメタ演劇的なモチーフが重なり合う.台詞がすべて英語なのは,作品がイギリスで制作されたことを考えれば当然といえば当然なのだが,やはり残念である.
ロイド・ウェーバーによる,強烈な印象を植え付ける美しいメロディの数々は,僕の記憶の中にほとんどしっかり残っていた.役者の歌もうまい!! やはりミュージカルというなら,このレベルの歌唱力は必須だろう.

もてない男の奇形的で濃厚ながら,せつない恋物語.二人の男の求愛の中で揺れ動く女性の心理をヒロイン役の女優は見事に表現していたと思う.ラスト近く,ドン・ジュアンの劇中劇の最中,舞台上で登場人物を演じる怪人と少女の間に信頼と愛情が確認されるシーンはマリヴォー劇を連想させた.
もてない男の話には滅法弱い.若い男女の恋愛の交歓の幸福感あふれるデュエットを,怪人が引き継いで同じメロディーを,己の恋の不可能を嘆き,娘の裏切りへの呪詛に代えてしまう場面や,ラストでキス一つで満たされてしまう怪人のつつましい恋愛表現に涙.
上映時間中は実にたびたびこちらの涙腺を刺激する歌曲やシーンに満ちていた.
前半は美しい歌の数々で魅了し,後半はドラマの展開で引き込む構成もバランスがいい.惜しむらくは美術が若干ちゃちに感じられる点があったことか.映画的広がりのある絵が少なかったように思う.
静かで暗示的なラストシーンも余韻が残る.
しびれるような感興を存分に味わう.また舞台上でも観たい.四季の舞台はどうかなぁ.見に行きたいけど,せっかくのイメージが壊れてしまうようなことになるともったいないので,見に行く決心がつかず.