閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

終着駅アメリカ

Endstation Amerika

刺激的な舞台,諧謔に満ちた洗練されたセンスを感じさせる舞台だった.

あまりにも過激な改変に著作権者が「欲望という名の電車」というタイトルを称することを認めなかったということだが,先日見たビビアン・リーマーロン・ブランドの映画版とは風味は全く異なるものの,カストルフの演出は想像していた以上に原作のテクストを生かしたものだ.しかし先日の映画字幕でなじんだ台詞が,カストルフの演出によって違った文脈を与えられることによって,全く別のイメージで提示される.映画を事前に見ておいてよかった.両者の格差の大きさを楽しむことができたからである.全く同じ台詞がカストルフの演出では原作への意地の悪いオマージュ,パロディに近い感覚で提示される.
今日の舞台のテネシー・ウィリアムズには,原作に濃厚な青臭い湿った生真面目さ,融通のきかなそうな暗さはない.カラッっとポップに明るいが徹底的に空虚で破壊的で諧謔的である.
場面場面をつなぐナンセンスで破壊的なギャグも好みだった.原作にそって舞台上の舞台はアメリカ南部の町なのだが,それが意識的にドイツのベルリンの現況とも重なるようになっていて,この重なりのぶれが見る物を惑わせる.
欲望という名の電車」についてのきわめて斬新な新しい解釈.遺族がこうした読みを認めないのはいかにも心が狭い.ウィリアムズの原作はこの演出によって新しい世界を獲得したというのに.ただ『終着駅アメリカ』というタイトルもオリジナル・タイトルに劣らずかっこいい.

愉快な舞台で演劇的感興を味わったというのに,前半は特に眠くて仕方ない.ここまで眠り舞台が続くのはやはりこちらの体調の問題なのだろう.劇場の暗さと気温,椅子のすわり心地が抵抗できないほど強く僕を眠りに誘う.
客の入りは7割ほどだった.