閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)

  • 二月大歌舞伎 夜の部
  • 作:長谷川千四,文耕堂『三浦大助紅梅たづな』第三段より(1730)
  • 出演:松本幸四郎,中村歌六,中村芝雀,坂東彦三郎
  • 評価:☆☆☆★
                                          • -

時代物,義太夫狂言の定番作品.眠ってしまうかなと思ったけれど,案外楽しめた.
リアリズム演劇ではとうてい上演しえない,グロテスクな話である.父娘の行商に売りつけられた刀の切れ味を確認するために,死罪に決まった罪人をふたり重ねて胴をを斬る「二つ胴」の試し斬りの場面が山場の一つ.この試し切りはどうやら人間の胴二人分を斬らないと意味がないらしい.斬られる囚人が一人しかいないので,もう一人を刀を売りつけた父娘の父親が引き受けると申し出るのだ.どうしても刀を売って三〇〇両を手に入れて,それを娘に与えなくてはならない事情があるらしい.
果たして梶原平三は「二つ胴」の試し切りを行うのであるが,胴がまっぷたつに割れたのは無理矢理引き出された囚人だけで,父親は無事.この試し切りのためだけに設定された囚人には「剣菱呑助」というふざけた名前がついていて,命乞いの長台詞もある.その長台詞が酒の銘柄名とのダジャレを多く含んだものになっていた.こうしたナンセンスな笑いがあるから,試し斬りで死んでしまっても陰惨な感じがしないのだが,残忍な笑いと父娘の親子愛の物語を平然と共存させる感覚がすごい.胴が二つに割れる場面,最後に石の手水場が二つに割れる場面では会場から失笑がわきおこる.まともな反応だと思う.
また敵方,味方の大名や武将がずらっと舞台後方に平行に並んだままほとんどの時間を彫像のようにじっとしていた.生身の人間を背景美術として用いるやり方が徹底されていたのが面白かった.
今回は義太夫の歌詞にもいつも以上に注意を傾けた.案外聞き取れるものである.義太夫語りと役者の演技のコンビネーションも愉しむ.