閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

カフカの「城」Das Schloss

パンフレットにあるハネケのコメントによると,この作品はもともとはテレビ映画として制作され,ハネケとしては会心の作というわけではないようだ.しかし僕にとっては驚異的な作品で見終ったあと,うわごとのような独り言が思わず漏れたほどの高揚感を味わう.
この作品は原作の小説を読んでから観た方がはるかに楽しめると思う.映像のハイパーリアリズムによって再現されたカフカの『城』である.延々と続く不可思議な夢の情景が確実に鮮明にそのディテイルのすみずみまで再現されていることに驚嘆する.
これまで見たハネケの四作品とは異なり,表現が抑制された怖くない作品である.しかしその表現の偏執狂的な徹底ぶりに身震いするような感覚を味わう.主人公Kとともに極めてリアルでありながら何ともとらえどころのない夢の世界を探索する感覚を味わう.
役者陣がまたしびれるほどうまい.
カフカの原作への敬意に満ちた,荘厳ささえ感じるような傑作の上映に立ち会えた幸せを噛みしめる.