閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ベシー・スミスの死

百景社

  • 原作:エドワード・オールビー
  • 上演時間:1時間10分
  • 演出:志賀亮史
  • 美術:森岡美希
  • 照明:半田達郎
  • 衣裳:田村香織
  • 出演:鬼頭愛,山本晃子,梅原愛子,栗山辰徳,中村健太,村上厚二
  • 劇場:静岡 楕円堂@舞台芸術公園
  • 評価:☆☆☆★
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鈴木忠志が芸術総監督を務める静岡舞台芸術センター(SPAC)が主催する芸術祭公演の一つ.今回の芸術祭のテーマは「アメリカ」ということで米国人作家の作品および米国人以外の作家による米国を主題として作品が何本か上演される.
連休の帰省の帰り,旧清水市(現在は静岡市に合併されている)在住の弟宅に一泊させてもらい,連休の最後の二日間に上演される3作品を観劇.
舞台芸術公演は日本平の高原のただ中にある.劇場よりむしろキャンプ場でもあるのがふさわしいような場所.森と竹林,茶畠のただ中に野外劇場が一つ,屋内劇場が二つある.二つの屋内劇場のうち一つは稽古棟も併設されているようだ.
楕円堂はその名称が示すとおり楕円形の建築物.内装は和風建築で入り口が三階.待合い室は畳敷きもしくは板張りで,劇場空間を取り囲むドーナツ型に配置される.中には靴をぬいで入る.舞台および客席は下に階段で下りる.-二階に入り口がある.上部は筒状に吹き抜け風になっていて20メートルほどの高さがある.客席収容人数はつめれば200席ぐらいは大丈夫そうだ.とてもユニークな構造だが,畳敷き,板張りの内装と窓から見える高原の風景ゆえに落ち着いた風情がある.
オールビーの名前は知っているが作品は未読で舞台を観るのはこれがはじめて.演出家,劇団も今回が初めてである.女性ブルース歌手ベシー・スミスは交通事故で重傷を負い,白人専用病院に運ばれるが,治療を受けることなく放置され死んでしまう.舞台では白人病院の受付での看護婦や医師たちの会話を中心に展開する.
日常的な口調や動作は極端に,戯画的にデフォルメする演出が興味深かった.役者は観客のほうを向いて話すことが多く,その表情はエキセントリックな調子で語られる台詞に合わせて仮面的に変容する.同じ台詞を複数の役者で唱和したり,突然地面にうつぶせになって寝ころんだまま台詞を話したり.日常的な文脈からはずれた不自然で人工的な発声・演技スタイルはきわめてユニーク.しかしおそらく本来よりシンプルでわかりやすいはずの原作は,解体されたあげく過度に複雑に再構成されわかりにくいものになっている.原作のメッセージは曖昧なものになってしまった感あり.演出家の表現への気負いばかりが前面に出た舞台だった.過度に解体され「複雑化」されてしまったため,作品の知的な実体が空洞化してしまい,感覚的表現の意欲が空回りしているように思った.意味を失ったエキセントリックな演技に集中力がもたず.意識をしばしば失いそうになる.