ちょっとした躓きがきっかけで転げ落ちるように人生の坂道を転落していく女の一生.原作の小説は一年ほど前に読んだのだが,対象の転がし方があまりにも定型的な感じがしてあまり面白いとは思わなかった.すでに中谷美紀主演での映画化は伝えられていた.映画化となると作品内容からヌードはほぼ確実と思われたので,「こんな安い小説の映画で中谷美紀が脱ぐなんて脱ぎ損だよなぁ」と思っていたのだが,『下妻物語』を撮った中島哲也が監督と知ってからはその出来具合をかなり期待していた.
個人的には『下妻物語』よりこの『嫌われ松子の一生』のほうが好きだ.鍵のとなる仕掛けや設定のあざとさといかにもといった才気を見せつける遊びが鼻につくところがあるのだけれど,各場面はそれぞれ細部まで非常に考え抜かれた上で工夫が施されているのがわかるし,何よりもあの湿っぽい原作を,歌謡曲ミュージカルのかたちで再現するという発想がすごい.「汚れ役」にもかかわらず中谷美紀は,奇天烈ながらも美しく魅せる演出がされていて,この映画でも彼女は唖然とするほど魅力的である.役者陣は多彩で個性の強い役者をそろえているが,それぞれの特性を生かした配役と演出はみごと.完全ミュージカル版の『松子』を舞台で観てみたくなった.
エンディングはしつこすぎるのだけれども,目論見通り素直に泣かされてしまった.見終った後のカタルシスは大きかったのだけど,作り込みすぎたスタイルには若干の違和感も感じる.