郡司正勝(岩波書店,2006年[岩波現代文庫版])
評価:☆☆☆☆
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初版は1954年刊行なのでもう半世紀も前になる.著者は早稲田大学で教鞭をとった演劇学者で本書の内容も入門書とはいえかなり固めの内容である.大項目主義の超大型百科事典の「歌舞伎」の項目を想起させるような構成と内容で,かぶきの本質,歴史,劇場,観客,役者,劇作術,演出,社会的機能について歴史的観点から堅実に記述されている.西洋演劇的観点からの歌舞伎を評価,理解するような姿勢には著者は一貫して慎重かつ批判的であり,西洋演劇美学と対照することで見えてくる歌舞伎の演劇としての弱点および特性についてもしっかりと記されている.歌舞伎という対象に対する著者の距離の取り方はいかにも研究者らしく客観的で冷静であるが,歌舞伎の現在・将来については古典歌舞伎の保存・継承にこそ歌舞伎が生き残る道があるという保守的な考え方が繰り返し表明されている.「入門書」ではあるものの,歴史的観点から歌舞伎の全体像をバランスよく提示した好著.