閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

激しく待ち焦がれながら/悪こそは未来

http://www.geocities.jp/hmlinkjp/fueda.htm
笛田宇一郎演劇事務所公演

  • 構成・演出:笛田宇一郎
  • 音響・照明:曽我傑
  • 出演:花佐和子,笛田宇一郎
  • 上演時間:70分
  • 劇場:神楽坂 神楽坂die pratze
  • 評価:☆☆☆
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ハイナー・ミュラー作品連続上演企画,「ハイナー・ミュラー/リンク」の公演の一つ.笛田氏の舞台は今回が初見.薄い白塗りで,どれっとしたボリュームのあるワンピースを着てくねくねと踊っていたので舞踏系の人かと思ったのだが,Webページのプロフィールによると鈴木忠志主宰のSCOT出身の役者だとのこと.
神楽坂die pratzeも初めていった会場だった.神楽坂と飯田橋,江戸川橋のちょうど中間あたりの古びたマンションの建ち並ぶ住宅地のただ中にある.外観も劇場とは思えず,印刷工場の倉庫かな?といった感じだった.観客席は50席ほど.今日の公演は満席だった.
会場に入ると照明が落とされ,前方の演技空間の中央,いくつかの紙袋の傍らでホームレス風のおばさんが寝っ転がっている.最初は右奥に登場した白塗りの怪しげなかっこうをした浮浪者風男の語り.この語りの間,ホームレスおばさんは寝っ転がったまま.しばらくすると起きあがっておばさんもなにやら語りはじめるが,二人の語りが「対話」となるのは芝居がはじまってから20分ほどたってからである.ホームレス同士が酒を酌み交わしながらうだうだと,思想や政治についての堅苦し話題を話す.おばさんは方言っぽいアクセントをつけて目をぎょろりと見開きながらキンキンした声で話すが,白塗りおじさんは唇は半開きでごにょごにょごにょと口の中で転がすように不明瞭に話す.話の内容もさることながら,この発声の単調さに強烈な眠気がわき上がる.二人は「対話」というよりは,ミュラーや他の作家,構成者や役者自身のでっちあげたテクストの断片をコラージュ風にばらばらと並べているだけで,展開には脈絡がない.これを七十分聴き通すというのは僕にはかなり厳しい作業だった.半睡状態での鑑賞になってしまう.
この手の思弁的(?)スタイルの前衛への耐性がこのところ本当になくなってしまった.ミュラーでこの演出だと,あまりにも予定調和な感じで驚きに乏しい.もっとびっくりさせて欲しいのだけれど.最後の白塗りの舞踏的な動きの美しさ,去っていく後ろ姿にあたった照明のうまさは印象に残ったものの,我慢を強いられた割にはインパクトに乏しい公演だった.