閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

審判(1963)

THE TRIAL / LE PROCES

映画冒頭で紙芝居をめくるようなかたちで語られるのは「門番の寓話」である。原作では,この寓話は主人公のKがイタリア人顧客を案内するために立ち寄った町の大聖堂の聖職者によって語られる。門番に門から中に入ることを咎められた男は結局何十年もその門の前にたたずむことになる。死ぬ間際に男はその門がその男のためだけに用意されていることを知る。それを告げた後,門番は扉を閉める。

白黒映画で,光と影のコントラストを強調した映像の絵画的な美しさに引き込まれる。巨大な体育館の中で何百台もの計算機(?)が操作される銀行の場面,多数の観衆あるいは裁判所関係者で埋め尽くされた劇場内部のような法廷,少女たちの視線にさらされる粗く組まれた木組みの小屋にある画家のアトリエ,その木の枠の隙間から内部へ入り込む光が作り出すストライプなど,イメージ喚起力に富む印象的な映像がいくつもあった。キリコの描く架空の風景が映像化されたかのような町の風景もあった。

原作同様,夢の中での対話のようなかみ合っているのかかみ合っていないのかわからない対話が延々と続く場面は,話のトーンは終始陰鬱なこともあって,その単調さはこちらの気を滅入らせ,退屈させることもあった。こうした意図的に設定された退屈さ,その退屈さが生み出す得体の知れない不安感を,スタイリッシュな映像とともに味わい楽しむ作品である。