SAYONARA!中講堂企画第3弾「桜の園」
http://theatre.art.nihon-u.ac.jp/09/sayochu/sakura.htm
- 作:アントン・チェーホフ
- 翻訳:神西清/
- 演出:桐山知也
- 装置:中島明子
- 照明:横原由祐
- 音響:渡邉邦男/齋藤慧
- 衣裳:阿部朱美
- 演出助手:大澤遊
- 舞台監督:山口英峰
- 制作:酒井今日子/中桐寿紀
- 企画:原一平/藤崎周平
- 出演:松熊信義、半海一晃、中村彰男、木原実、宮本裕子、片岡佐知子、草光純太、松崎史也、水野顕子、角野哲郎、赤星武(演劇学科3年生)、大野香織(演劇学科3年生)、矢沢洸平(演劇学科3年生)、工藤佑樹丸(演劇学科2年生)、多賀麻美(演劇学科2年生)、舟橋杏美(演劇学科2年生)
- 上演時間:1時間50分
- 劇場:日本大学芸術学部・中講堂
- 評価:☆☆☆☆★
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取り壊し直前の日芸中講堂での公演。出演者、スタッフのほぼ全てが日芸の出身者、学生である「桜の園」の公演を見た。
テクストのことば、典雅で古風でもある神西訳のことばから自然に立ち上がってくるような素直な舞台を期待したが、果たしてこの「桜の園」はまさにそういう舞台だった。素晴らしい公演だった。ことばが伝えるメッセージが丁寧に汲み取られ、それがケレンのない誠実な表現で描き出される。様々な音色の楽器が美しいハーモニーを響かせる繊細な音楽のような舞台だった。
桜の園を背景に、多数の登場人物のそれぞれ異なる想いがかっちりとかみ合わないまま、桜の園の館の子供部屋を漂い、流れていく。砕け散る寸前の結晶のような時間が流れる。
ラネーフスカヤとガーエフの二人が最後に部屋に居残る場面が痛切でたまらない。それまでずっと駄弁を弄していたガーエフが旅立ちの直前にことばが出なくなってしまう。背後から新しい生活への希望に心躍らせる若者たちの明るい呼び声が聞こえる。この美しいコントラストを、私がテクストから受け取ったイメージを寸分も壊すことなく、この舞台は再現してくれた。
白く塗られた舞台美術に黒い衣裳の人物を対比させたビジュアルの象徴性も強い印象を与える。音楽はごく控えめに、劇中で音楽が流れる場面でのみ使われていた。
役者たちもすばらしかった。新劇風スタイルの記号的表現を効果な控えめさで取り入れ、それぞれの人物の個性を明瞭に表現していた。とりわけの宮本裕子演じるラネーフスカヤは本当に魅力的だった。儚くて、アンニュイで、壊れそうで、イノセントで、そしてとびきり美しい。これほど高いクオリティのチェーホフ劇を体験できることはそうあるものではない。大いに満足する。