マック赤坂を中心に、2011年末に行われた大阪府知事選に出馬した泡沫候補を追うドキュメンタリー。見る前に予想していたより真っ当なドキュメンタリー映画だった。変人の奇抜な行動を意地悪い視点から嘲笑するようなドキュメンタリーかと思えば、それだけではない。
まず当選するとは考えられないにもかかわらず、300万もの供託金ほか、相当な費用と労力、時間を投入し、珍妙な選挙運動と政治主張で世の失笑を買う泡沫候補者たちの出馬動機は不可解だ。この映画を見ても私にはさっぱり理解できない。単なる売名、名誉欲という理由では説明できないような、不可解な衝動に彼らは突き動かされ、派手な浪費を行っているようだ。彼らは常軌を逸している。しかし彼らの得体の知れない衝動は、われわれ自身の内側にもあるように思われる。
観劇に莫大な時間と金を浪費している私も、外から見れば彼らと大同小異に違いない。自己破壊にも通じるような愚かな浪費のなかでこそ、われわれは生きている手応えを感じることができるとも言える。
マック赤坂以外の府知事選出馬の泡沫候補の姿も興味深い。中村勝はかなりの高齢だが小学生の娘とひっそりと二人で暮らしている。高橋正明は駅前で挨拶しかしない。岸田修は自宅に引きこもり、自分のプライバシーを一切明らかにしない。これらの泡沫候補たちはそれぞれ2万票あまりを府知事選で獲得している。供託金は没収されてしまったが、それでも2万票。いずれの候補も、現代社会が抱える病理的側面がそれぞれの人物に表象されているように感じる。
この府知事選では大阪維新の会の松井一郎が圧倒的得票数を集め当選した。そして橋下徹が大阪市長となった。彼ら二人に府政を託すのと、こうした泡沫候補たちに投票するのとどちらがよりまともな投票行動だと言えるだろうか。
映画「立候補」の最後は、昨年末の衆議院選挙の映像で終わる。秋葉原に安倍晋三が街頭演説にやってきたとき、秋葉原は日章旗で埋まった。そのなかにマック赤坂は乗り込んでいく。泡沫候補の彼はゲリラ的に街頭演説に無理矢理入り込むしかない。マック赤坂に投げかけられる罵声。この罵声に動ずることなく、笑い声で答えるマック赤坂。マイクを通した笑い声が自民党の街頭演説を妨害する。日の丸の掲げ、マック赤坂をののしる群衆たちの姿と奇人のマックの対比が、現代の日本の選挙、政治風景の危うさ、おかしさを浮き彫りにしていた。