閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

朗読劇 ひめゆり

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  • 脚本:瀬戸口 郁
  •  『私のひめゆり戦記』(宮良ルリ著) 
  •  『ひめゆりの塔 学徒隊長の手記』(西平英夫著) 
  •  『ひめゆりの塔をめぐる人々の手記』(仲宗根政善著) より
  • 構成:道場禎一
  • 構成・演出:西川信廣(新国立劇場演劇研修所副所長)
  • 美術:小池れい
  • 照明:塚本 悟
  • 音楽:上田 亨
  • 音響:黒野 尚
  • 衣裳:中村洋一
  • ヘアメイク:前田節子
  • 歌唱指導:伊藤和美
  • 方言指導:長本批呂士(3期修了)、下庫理ゆき
  • 演出助手:阿岐之将一(10期修了)
  • 舞台監督:米倉幸雄
  • キャスト:川澄透子 金 聖香 佐藤 和 篠原初実 高嶋柚衣 田渕詩乃 生地遊人 小比類巻諒介 椎名一浩 上西佑樹 バルテンシュタイン永岡玲央 山田健人(11期生)  岩澤侑生子(7期修了)
  • 上演時間:90分
  • 劇場:新国立劇場 小劇場
  • 評価:☆☆☆☆☆

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研修所研修生の芝居、しかも朗読劇。内容は反戦平和を訴える教訓もの。正直なところ、出演者である知人から声がかかっていなければ、どんなに評判がよくてもわざわざ見に行こうとは思わなかっただろう。戦争の悲惨さを訴えるこういうタイプの芝居はあまたあって、そのメッセージのあまりの正しさゆえに、もううんざりという気分なのだ。

しかし見に行ってよかった。素晴らしい舞台だった。沖縄がかつて戦争で経験したあまりにひどい、痛ましい現実について、われわれは忘れてしまっていている。しかしそうした忘却がどんなにひどいことなのか、そして歴史の悲惨はなぜ語り継がれなくてはならないのかを、あらためて教えてくれるような作品になっていた。

しかし70年前の悲痛としかいいようのない歴史的事実を、今の私たちがここで、どんなにうまくお芝居として再現したとて、いやむしろうまく演じれば演じるほど空々しさが漂ってしまうかもしれない。それでは私たちが当事者性とともにあの過去の悲惨と対峙するにはどうすればいいのか。

ダイナミックな動きのある朗読劇だった。台本は沖縄戦ひめゆりに関わりを持った3人の人物の手記を再構成したものだった。あの痛ましい歴史を演劇というかたちで伝えるにあたって朗読劇というスタイルを選択したのは正解だった。証言を「台本」を通して間接的に伝えるという形式によって、あの悲痛としかいいようがない歴史的体験を説得力を持って、今ここにいる若い俳優たちが演劇的に再現することが可能になったのだ。
現代の日本人の立場から、あの体験を誠意をもって、真摯に、まっすぐ、演劇を通して伝えるにはどうしたらよいのか、あの体験を演劇で伝えることにはどういう意味があるのかと考えた結果が、あの朗読劇というスタイルに行き着いたように思った。

冒頭の牧歌的な場面が、上演時間の大半を占める無慈悲な現実と残酷に対比される。胸締め付けられる緊張感に満ちた時間が最後まで持続する。