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ゴキブリコンビナートの公演で期待を裏切られたことはない。常にこちらの期待を越えた過激で壮絶で独創的な趣向で楽しませてくれる。小金井市某所の野外テントで行われた本公演も壮絶で苛酷な、そして驚異的なパフォーマンスだった。場所を特定されてはまずいので、公演終了後までテントの写真はSNS等に公開しないように言われた。
今回の本公演も強烈だった。受付のときに「危険で汚れますけど」とさらっと注意される。もちろんそんなことは承知の上だ。
整理番号順に並ぶのだが、入場前に視線を塞がれてしまうのだ。眼鏡をかけていない観客はアイマスクを、眼鏡をかけた観客は黒い布袋を頭からすっぽり被せられる。観客の9割はビニール合羽を持参していて、行列時にスタンバイしていた。
ゴキコン公演ではビニール合羽は必須アイテムだ。だいたい9割方の観客が持参している。私はこれまであまり服が汚れることはなかったので今回は持参しなかったのだが、服が汚れる汚れないに関わらず、一つの観劇スタイルとしてビニール合羽は持って行くべきだった。
都内某所での野外テント公演だったが、入場前から恐くてどきどきする。客入れに時間がかかった。そして芝居がはじまるとテント内は阿鼻叫喚となった。
目が見えない状態で一人ずつ誘導されて入場するので、入場にはかなり時間がかかった。時計も見ることができないため確認できなかったが、十五分以上は予定していた開演時間より押していたと思う。
立ったままでの観劇である。観客は10畳ほどの狭い空間に押し込められる。体が触れあうぐらいの密集ぶりだ。そこは「満員電車」だった。痴漢たちが密集した車両のなかを跋扈する。酔っ払いが乗り込んできてゲロを吐く。上から酸っぱい匂いの液体が振ってきた。観客は目隠しをされたまま、叫び声を上げながら逃げ惑う。目隠しをはぎ取られると、今度は女性乗客数名がお腹の調子が悪いらしい。彼女たちは壁や天井の鉄パイプによじ登り、下痢便を下に向かってまきちらす。阿鼻叫喚の観客たち。汚物がばらまかれるときにさっと身構える緊張感がたまらない。本公演では本当にフード付きの雨合羽は必須だった。さもなければ頭上から汚物にまみれていた可能性がある。
この満員電車の場のあと、壁が取り払われる。炭坑での悲惨な労働生活でさんざんいたぶられた健太とチアキのカップルは、健太の両親が住む農村に移住する。チアキはストレスフルな生活のなかで狂気に陥っていた。そこにはのどかで美しい自然と田園で遊ぶ純朴な子供たちもいた。田園生活のなかで徐々に正気を取り戻すチアキ、しかし幸せは長くつづかなかった。田園の子供たちは、凶悪天才按摩師ヒロシの弟子たちだった。ヒロシを追って田園にやってきたミドリが、田園の平和を撹乱する。健太の初恋の相手だった幼なじみのミドリは、無残に犯され、快楽のなかで死ぬ。健太とその家族もヒロシの妖術按摩の犠牲になり、健太は絶望のまま、田園を彷徨する。
中盤からダラダラと展開が間延びするのもゴキコンならでは。暑さと匂い、そしてスタンディングでの観劇なので、観客もけっこうきつい。今回も本水を使う。初日だけれど、既にゴキコン公演の匂いがした。
出演俳優は危険を顧みず壮絶な芝居をみせ、観客の前でぼろぼろ、ドロドロになっていく。
本当に今回も楽しい公演だった。日本小劇場界の最前衛を30年突っ走り、そして最高のエンターテイメントでもある。日常の退屈に絶望している人はぜひゴキコン公演を見にいって欲しい。生きる元気が沸いてくるはずだ。
急傾斜の板の上を俳優たちが滑り落ちる。不安定な足場の上をよろめきながら移動していく。ゴキコンの公演をアヴィニョン演劇祭のオフで3週間やれば、フランスのメディアから注目されるだろう。アヴィニョンでゴキコン公演に立ち会い、唖然としているフランス人観客の様子を爆笑しながら見るというのが、俺の夢だ。