"[書籍]結核病棟物語
斎藤綾子(新潮文庫,平成9年)
評価:☆☆☆
斎藤綾子の自己の体験に基づく性描写は,常に殺伐としていて性愛に対するロマンチックな幻想のかけらも入り込まない.厳しい自己認識のいさぎよさには驚嘆するものの,その性描写はその殺伐さゆえにあまりにリアルに感じられ,読後からからとした虚脱感に襲われる.
『結核病棟物語』は,彼女の若き日の結核入院生活を題材にしたものではあるが,そこで描かれるあさましきそして情けない生と性のなまなましさには,やりきれないような思いになる.かすかな叙情味は,その生々しさに追いやられる.だがここで乱暴な筆致で描かれているのは,まさしく人間の本質的一面である.