閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ハードボイルド志願

長部日出雄河出文庫,1986年).
ISBN:4309401686
評価:☆☆★

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既にキャリアの長い作家である.直木賞受賞作の『津軽世され節』『津軽じょんから節』を読みたいと思うものの,絶版.受賞したのは1973年だから無理もないか.最近では太宰治の評伝を読んだ.
津軽の弘前出身であり,大宰の評伝作家であり,津軽の伝統と文化に密着した作品を発表し続けているというイメージで,長部日出雄には何となく関心があった.太宰治は昔から好きな作家であるし(そして大宰の作品そのものよりもむしろ大宰にまつわる言説を読むことが好きである),数年前学会で弘前に行ったときに一泊二日の滞在ながら弘前の町並み,現在は多少ひなびてはいるものの,かつて津軽文化の中心としての強烈な自負と個性が町並みに以前感じられて,弘前および津軽にまつわるものには淡いながらも関心を持っているのだ.もちろん津軽三味線のけれん味あふれる旋律も大好きである.
『ハードボイルド志願』はしかしながら津軽とは全く関係なく,舞台は横浜.ハードボイルド小説のパロディ的なユーモア・ミステリーの佳品.横浜の町のいかがわしい雰囲気をうまく利用した作品だった.文体も軽いし,構成も巧み.いかにもエンターテイメント作品の「プロ」の連作短編集という感じである.ただよくできているのだが,なぜかすいすいと文体に乗っていけない.面白いのだけど,あまり面白く感じられない.これは僕がこの連作集がパロディ化したハードボイルド自体をあまり好きでないし,ほとんど読んでいないことが原因かもしれない.ヴェンダーズ監督の『ハメット』を突然思い出す.高校のころ見たけれど,あれはかっこよかったなぁ.