閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

浅草鳥越あずま床

井上ひさし(新潮文庫,1981年)

浅草鳥越あずま床 (新潮文庫 い 14-8)

浅草鳥越あずま床 (新潮文庫 い 14-8)


評価:☆☆☆☆

                                                          • -

浅草の下町の商店街に住む,小学校同級の老人衆6名を主人公とする短編連作集.この6名は60前だから今の感覚では「老人」とは言えないが,彼らののんびりした生活ぶりはすでに「隠居」の雰囲気が漂っている.といっても枯淡の境地にはほど遠く,六名とも依然色気たっぷりで船橋のストリップや「トルコ風呂」に小金さえあれば通う元気は持っている.小学校同級ということもあり互いに「ちゃん」づけ,年はとっているがそののりは「悪童」ぽい無邪気さがある.
六名のなかに「かもじ屋」が入っている点,主人公格の床屋の次女の夫が「放送作家」である点,前夫人の西舘好子の生まれ育った界隈がモデルであることはあきらかだ.下町舞台の「人情喜劇」ぽい作りに一見なっているが,どんでん返しが用意された各逸話は推理小説風のしかけがほどこされている.六名のいかにも下町風の人物造型にかすかに香る作者の「下町」風情への反発を,解説で小沢昭一が的確に指摘している.