閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

十二人の手紙

井上ひさし(中公文庫、1980年)

十二人の手紙 (中公文庫)

十二人の手紙 (中公文庫)


評価:☆☆☆☆

                                                  • -

書簡体短編小説集。タイトル通り、書簡を使って十二人の人物についての物語が語られる。使われる書簡は特定の誰かにあてられた私信だけではない。第三篇では役所などに提出する公的な書類(出生届など)を並べることで一人の薄幸な女性の一生を巧みに浮かび上がらせることに成功している。また第十編「玉の輿」で使われる十三通の書簡のうち十一通は既存の「手紙の書き方」の類いの例文からそのまま取られたものである。こうしたいかにも井上ひさしらしい知的な趣向、仕掛けのほか、語られる物語も本質的に「嘘」をつき、事実を隠ぺいする性質を持つ手紙というテクストの特性を存分に生かした、どんでん返しのあるストーリー作りの職人芸も楽しめる佳篇。薄幸の女性を書き手とする手紙が多く、その内容はどこか運命の気まぐれを皮肉な視線で見つめているようなものが多い。
扇田昭彦氏の解説は作品の魅力と本質を的確に分析した優れた内容.