閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

演劇のことば

平田オリザ岩波書店,2004年)
演劇のことば (ことばのために)
評価:☆☆☆☆

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「ことばのために」というシリーズの中の一冊.内容は近代日本演劇史概説である.1924年の築地小劇場開設を中心に近代日本演劇の流れがコンパクトにかつ非常にわかりやすい文章で記述されている.日本近代演劇はその誕生直後から,「金」と「イロ」そして「政治性」に絡め取られるなかで混乱・崩壊・再生を短いサイクルで繰り返しているのだが,若さ,未成熟性が歴史的必然であったことが平田は明瞭に示す.
劇作を行っていた平田自身の父,そして叔父についての回想を,近代日本演劇史の記述にからめることで,記述内容に丸みを持たせている.平田の親族は日本近代演劇の主流に関わるような大作家ではないものの,その流れとは全く無縁というわけではない.演劇に限らないことではあるが,ことに演劇史の分野は徹底して東京中心であり,しかもきわめて狭いサークルの中で近代日本演劇史が形作られてきたことがこの著作でよく見える.著者の平田オリザもまた今後書かれる日本現代演劇の中で確実に言及される人物となることは確実だ.クラシック音楽の分野でも顕著だが,演劇もまた文化資本の継承という要素がとりわけ強力に作用する芸術分野であることを確認し若干白けた気分になる.