閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

空中庭園

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製作年 : 2005年
製作国 : 日本

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安定した日常的人間関係は、ウソや欺瞞なしでは成立しない。極めて私的な関係である家族関係においても、いやもっとも日常的に接し、解消することが極めて困難であるだけに、ウソや欺瞞の役割はより重要であるとさえ言えるかも知れない。人間関係の維持に必要なこうした儀礼的なウソは時に偽善的に感じられ、建前のない本音の関係を夢見ることは誰でもあるはずだ。しかしおそらく我々の多くは、生々しい「真実」と率直さのみがやりとりされる関係の残酷さにおそらく耐えることができないように思う。

幸福とは言い難かった母子関係と学校でのいじめの経験ゆえに、小泉今日子演じる主婦は隠し事のない明朗な家庭を夢想し、それを家族に強要する。こうした率直さの強要が家族の個々のメンバーにさまざまなひずみを生み出していた。家族の誰もがこのひずみに気づいたときにはもう修復は不可能な状態になっていた。中学生の息子が連れてきた家庭教師、ソニンの介入によって、この極度に誇張された欺瞞ががらがらと崩れていく様の描写は圧巻だ。無惨な真実の露呈により主婦は大きな心の傷を負う。悲劇的、絶望的なラストを予見させつつ、監督は絶妙の演出で観客の期待の地平に応える。家族関係の絆とは、幾重にも重なった白々しい欺瞞の向こう側にあるたおよりない絆にすぎない。それは腐れ縁のようなものかもしれないのだが、その成員の切実な願いも込められているのである。

回想シーンで使われている映像処理が若干うざったく好みではないが、作品としては間違いなく傑作。主演の小泉今日子の演技がすばらしい。彼女がこんなにすぐれた役者であるとはこの映画ではじめて知った。小泉だけでなく、自暴自棄のぐれた雰囲気の個性を見事の具現した大楠道代、思春期の少女の屈折した感情も微妙な表情で演じ分ける鈴木杏の頭のよさをはじめ、板尾創路ソニンの演技も素晴らしい。