閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ちっちゃなエイヨルフ

http://www.majorleague.co.jp/stage/eyolf/

一昨年秋の『野鴨』に続く、タニノクロウ演出によるイプセン劇の上演。東池袋のあうるすぽっとで15公演あるが、観客動員はちょっと苦戦している感じだ。空席がけっこう目立った。
決して悪い演出ではない。戯曲の芯となる部分を効果的に描き出す優れた舞台だと思ったのだけれど、タニノクロウ演出作品としてはどこか物足りない感じがした。一昨年に『野鴨』を見たときほどの衝撃は感じない。結末は『野鴨』のほうが悲愴だが、作品の印象は『ちっちゃなエイヨルフ』のほうが陰惨で重苦しい感じがした。音楽はバッハの「フーガの技法」の冒頭をピアノでぎこちないリズムと遅いテンポで演奏したものが時折流れるだけ。いい選曲だけれど、作品の雰囲気をさらに陰気なものにする。

あうるすぽっとの舞台は高さがかなりあって、かなりがらんと広い感じがする。舞台美術はそのがらんとした感じを積極的に利用したものだった。舞台上には古代ギリシャの遺跡風に石柱が並ぶ。石柱はロマネスク様式の建築に見られるような上がアーチ型になった出入り口を作る。出入り口から外側を見ることが出来る。天井部は吹き抜けになっている。床は板張り。
三幕構成で、各幕ごとに灰色の長イスの配置が変更される。長イスの配置は演じる場の変化がしたことを示すだけではなく、各場の雰囲気の優れた暗喩になっている。柱の冷たい質感と列柱の間にある無雑作な空洞が印象的だ。

体の不自由の小さな息子の死をきっかけに家族の人間関係のバランスが急速に崩れ、家族が機能不全に陥ってしまうというのはいかにもありそうな話だ。相互に傷つけあうような絶望的なことばのやりとりが延々と続くのを聞くのは、なんともたまらない感じがした。互いが互いに癒しを求めるけれど、どちらもそうした甘えを受け止めるだけの精神的体力を持てないほど疲弊しており、互いを受け止めることができない。相手を激しく傷つけることをわかってはいるけれども、自分も弱っているために、ストレスをぶつけ合いとなり、泥沼にはまりこんでいく。こうした状況は夫婦生活を続けていれば誰もが一度は経験することではないだろうか。
はげしいことばのやりとりで疲弊したのちにリタとアルメルスの夫婦が選択した決断は欺瞞かもしれない。でもそうした欺瞞を受容れ、エゴイズムを正当化することによってしか、人はこの世を生き抜くために不可避のたくましさを獲得することができないのかもしれない。

オーバーアクション気味の勝村政信の演技には違和感を感じた。とよた真帆は達者な演技だとは思ったけれど、僕が思い描く役柄のイメージとはずれていた。馬渕英俚可はとてもいい。マメ山田の使い方は秀逸だったけれど、出番があれだけというのはちょっともったいない感じがする。