閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

すてきな3にんぐみ【もうひとつの話】

http://www.puk.jp/kouen.htm
人形劇団プーク

  • 原作:トミー・アンゲラー作『すてきな三にんぐみ』(偕成社)より
  • 脚本:吉川安志
  • 演出:柴崎喜彦
  • イラスト:はまのゆか
  • 美術:佐久間弥生
  • 音楽:山下康介
  • 照明:鷲崎淳一郎
  • 効果:吉川安志
  • 振付:鳥居三枝子
  • 舞台監督:伊井治彦
  • 宣伝美術:内野洋一
  • 出演:栗原弘晶、小原美紗、野田史図希、大橋友子、伊井治彦、安尾芳明、滝本妃呂美、山越美和、油利衆、石島璃紗
  • 時間:1時間50分(休憩15分)
  • 劇場:新宿 紀伊国屋ホール
  • 評価:☆☆☆☆★
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傑作。これまで観たプークの子供向け作品の中では一番好きな作品かもしれない。

伝説的な三人組の泥棒(アングラーの原作の主人公たち)に憧れる間抜けで善良な三人組泥棒のもとに町の大富豪の娘が迷い込んでくる。娘は父母から十分に愛されているけれど、その愛を父母は贅沢な贈り物という形でしか示してくれない。そして父母の夫婦仲もあまりよくないようだ。何不自由ないお金持ちの生活に退屈を感じ、父母の態度に何となく寂しさを感じていた娘は、根は善良で優しく、おちゃめな失敗ばかりして楽しませてくれるこの三人組が気に入ってしまう。三人組も娘の天真爛漫な魅力にすっかり惹きつけられてしまう。四人と娘が連れてきた大型犬が仲良しになったとき、黒装束の三人組の悪党が娘を連れ去って監禁してしまう。
それまでどじばかり繰り返してきたダメな三人組は、むすめの奪還のために、力を合わせ、計略を練る。娘が願っていた「幸せ」を実現させることで、三人組は悪党どもから娘を取り戻すことに成功する。娘は自分が何を願っていたのかがはっきりとわかった。その町のお祭りの赤い装束にその娘が託していたものは何だったのだろうか? 三人組は牢から脱獄したことでまた町の留置所入りになってしまう。その留置所に娘からの手紙とプレゼントが届く。

オープニングはダンスと歌でアングラーの原作の三人組の物語の概要が述べられ、その伝説となった三人組に憧れるこの芝居の三人組を対比する。ミュージカルのこのオープニングナンバーは曲ののりもよくて、一気に演劇世界に観客を引き込む。ダンスも本格的でダイナミック。音楽はプークの芝居らしく、しっかりとお金をかけてつくった名曲がそろっていたように思う。効果音としてのBGMの選曲にもセンスを感じた。

人形劇といっても、主人公である三人組とヒロインのティファニーの飼い犬の超大型犬は着ぐるみでの演技だった。登場人物の類型がしっかりと設定してあって、役者の個性もよく生かされている。三人組はもとより、演技のめんで素晴らしかったのは犬である。長い毛で覆われた着ぐるみの造形、耳や鼻の細い動きによるユーモラスな表現、そしてその活動的な動きによって、大きな笑いを何度もおこしていた。役者のあいだのアンサンブルもなめらかで、見ていて心地よいリズムとのりのようなものを感じた。児童演劇としてはながめの1時間50分だが、スピード感は最初から最後まで維持されだれたように感じたところはなかった。

パステル調の柔らかく淡い色調をベースとした美術も素晴らしい出来だと思った。作品の牧歌調のほんわかした雰囲気をきっちりともりたてていた。

おまつりの場面、赤い服を着た子供のにんぎょうが大量に登場する場面も鮮やかでよかったのだけれど、チラシの絵からもっと大量の小人形がわあわらと舞台上を埋め尽くす様を想像していたので、若干の物足りなさを僕は感じた。もう一つ、こちらをはっと驚かすような意外性のある仕掛けがあの場面には欲しい気がする。

二年前の三月末に紀伊国屋ホールでこの演目の公演があった。ちょうど僕がプーク人形劇を娘といっしょに見始めた頃である。ちらしには赤い服を着た小さな女の子がたくさん描かれた洒落たデザインのイラストがあり、ユーモラスな紹介文にも好奇心をかきたてられたのだけれど、僕のスケジュールの都合がつかなくて僕は見に行くことができなかった。娘と妻、そしてまだ0歳だった息子が見に行った(息子はずっと寝ていたそうだけれど)。ちらしのかわいらしいデザイン、そのときの妻や娘の話す様子や、児童演劇の評が書いているウェブページの記事内容(http://members.jcom.home.ne.jp/s.ishi/sonota.htm#%82%B7%82%C4%82%AB%82%C8%8EO%90l%91g)を読んでいつか観てみたいと思っていた作品である。期待を裏切らない秀作だった。新宿では明日までだけど、できるだけ多くの人にこの作品を通じてプーク人形劇の魅力を知って欲しいなと思う。