閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

新年工場見学会08〜アングラのニセモノ〜

五反田団、ハイバイ

  • 劇場:五反田 アトリエヘリコプター
  • 時間:2時間(休憩十分)

http://www.uranus.dti.ne.jp/~gotannda/

  • 『珍徳丸』(ユニット名:ザ★天井)
    • 作・演出:岩井秀人
    • 出演:浜田信也(イキウメ)、墨井鯨子、木滝りま、岩井秀人(ハイバイ)
    • 評価:☆☆☆☆
  • ザ・ノーバィディーズ ライブ
    • 出演:宮部純子(リコーダー)、浅井・コッサ・浩介(パーカッション)、鈴木正悟(ケンバンハーモニカ)、肥田知浩(ギター、歌)
    • 評価:☆☆☆★
  • 『思いやりをすて、母を出よ』(ユニット名:黒田童子)
    • 作・演出:前田司郎
    • 出演:黒田大輔(THE SHAMPOO HAT)、安部健太郎(青年団)、内田慈、西田摩耶(五反田団)、前田司郎(五反田団)、肥田知浩(劇団hako)、齋藤庸介
    • 評価:☆☆☆☆
              • -

今年の芝居始めは五反田団の新年工場見学会。今年で四回目か五回目だそうだが、僕は今回がはじめてだった。昨年は能のニセモノをやったそうだが、今年はアングラのニセモノである。前田司郎と岩井秀人によるアングラ演劇のパロディという企画の着想だけで期待が膨らむ。

1.岩井秀人作・演出『珍徳丸』(ユニット名:ザ★天井)
2.ザ・ノーバディーズ ライブ
3.前田司郎作・演出『思いやりをすて、母を出よ』(ユニット名:黒田童子)
の三本立て、ホットワインのサービスがある休憩十分を含み、二時間の公演だった。これで2000円は安い。お正月福袋価格。

岩井作品、前田作品とも四十分ほどの短編。ノーバディーズ・ライブは十五分ほど。演奏前後に前田、岩井
岩井作品は、作品名、ユニット名からわかるように天井桟敷のニセモノである。『身毒丸』自体は僕は未見なのだが、寺山の世界のお約束的な素材を丁寧に踏まえつつ、それらを巧妙に脱臼させる技は実に見事で、大いに笑わされてしまった。すき間の多い弛緩した演出・脚本ではあるものの、真面目にやれば一編のアングラ劇としてかなり完成度の高い作品となったような気がする。
前田作品は岩井作品よりもっとぐだぐだでルーズな作りだった。THE SHAMPOO HAT(この劇団、僕は未見。今年は見てみたい)所属の黒田大輔を全面的にフィーチャーした作品ゆえ、黒田童子という劇団名になったようだが、桟敷童子も意識しているのだろう。作品タイトルは何のパロディになっているのか(あるいはなっていないのか)僕にはわからない*1
作品自体はとある作品のパロディというよりは、アングラ的記号を場面や演出でコラージュのように再構成したといった感じである。

どちらも「アングラのニセモノ」を提示しているため、アングラ演劇の類型性を強調した意地悪い揶揄は当然含まれていた。アングラ系の演劇の泥臭さ、カッコ悪さの強調の仕方の上手さは両者とも際立っていたが、その表現のたちの悪さ、嘲笑ぶりについては前田作品のほうが岩井作品よりはるかに強力な毒を含んでいるように思う。
笑ったということでは前田作品のほうにより多く僕は笑わされたのであるが、その表現の悪意にはある種の精神のすさみのようなものも感じ、後味はあまりよくない。劇団黒田童子では、最後に出演メンバーが横一列に並んで勢いよく観客に挨拶する、といったパフォーマンスまでパロディ化されていた。つい先日僕が見に行った新宿梁山泊などアングラ系のカーテンコールでこのスタイルは多いように思う。この挨拶のパロディについては黒田大輔はテレが出てしまって、しっかり演じきることができなかったのだが。

アングラ系の芝居の雰囲気は僕はかなり好きなほうなので、前田司郎の表現にある冷笑的姿勢の徹底には、ちょっと複雑な気分になる。前田司郎の笑いのセンスは僕の嗜好と親和性が極めて高く、爆笑させられることが多いのだけれど、実はあんまり好きではないような気もする。

ザ・ノーバディーズは京都で路上ライブをやっているバンド。メンバーは前田司郎が京都で製作した『生きているものはいないのか』の出演者と重なっている。教育楽器を使った脱力系のちょっと奇妙なフォーク・グループだった。演奏は15分ほど。曲の前後に入る、舞台の後ろの方で酒を酌み交わす前田司郎、岩井秀人らのだらだらとしたコメントが面白い。

*1:『書を捨てよ、町へ出よう』でしょう、という指摘あり。言われてみればそっか、って感じだけれど、思いつかないとはちょっと恥ずかしい