閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ふたごの星

座・高円寺 - 「ふたごの星」の詳細情報

  • 原作:宮沢賢治
  • 脚本・演出:佐藤信
  • 美術:tupera tupera
  • 音楽:KONTA
  • 照明:齋藤茂男
  • 音響:島猛
  • 衣装:STORE
  • 舞台監督:津田光正
  • 出演:久保恒雄、重盛次郎、北川響、山本称子※、服部容子※
  • 劇場:座・高円寺
  • 上演時間:50分
  • 評価:☆☆☆
                                • -

座・高円寺が制作する子供ための芝居の第二弾。
開館した年に初演されたルドヴィコ脚本・演出の「旅とあつとお姫さま」は極めて質の高いファンタジー劇で、劇場のレパートリーとして以後毎年上演されている。私は昨年「旅とあいつとお姫さま」を見て大きな感銘を受けた。今年も家族で観に行く予定である。

「ふたごの星」は劇場芸術監督の佐藤信作・演出の新作。宮沢賢治の童話をベースとしている。チュンセ童子とポウセ童子というふたごの星が主人公。このふたごを一人の女優が演じる。

影絵を効果的に使った舞台美術は洒落ている。舞台平面にはガラス瓶が並び、幻想的な空間を作り出していた。ただし脚本は私にはよくわからなかった。佐藤信作・演出ということである程度覚悟はしていたのだけれど、思っていたとおり、美しく洗練された舞台美術は印象的ではあるが、私にとってはつまらない作品だった。丁寧にいろいろ考えた上で作られた作品であることはわかったけれど、私の好みではない。前衛風の気負いと児童劇に対する作・演出家のステレオタイプが結合したかのような作品だった。

語りや歌が挿入されるのだけれども、ことばが何を言っているのかよく聞き取れない。脚本に対話的なやりとりがほとんどない。一応掛け合いらしきものはあるけれど、詩的なモノローグに近いもの。しかしその台詞の内容、詩情は私にはよくわからない。思わせぶりの象徴的表現が同じ調子で連なっていく。私には退屈だった。舞台上で用いられている語りの技法については、全く別ジャンルではあり比べても仕方ないのかもしれないが、昨夜の志の輔、その前に聞いた志らくなどの落語家の繊細な工夫を思うと、大味でのっぺりとしていてずいぶん貧しく感じられた。

パンフレットの文章の「です、ます調」、子供への語りかけ調も私は好きではない。「どんなお話かな?」とか「天の王様はどこにいるのでしょう?」などなど。子供目線で作っていますよというわざとらしいポーズに思える。作品や企画全体にただよう教育的、啓蒙的雰囲気から、子供演劇に対する作・演出家の姿勢が透けて見える。誠実に作品を作っていることは感じたけれど、その子供劇観を私は支持できない。平田オリザ、倉迫康史など子供劇の専門家ではない演劇人が作った子供向き芝居を見て感じてきたことだが、今回の佐藤信作の「ふたごの星」にも子供劇という枠をなまじ強く意識してしまったがために、その枠がその表現の可能性を狭めてしまっているような感じがした。

座・高円寺の地域劇場としてのユニークなあり方は佐藤信が芸術監督であったからこそ可能になった面が大きいと思うのだけれど、劇場のレパートリー、上演プログラムという面では佐藤の人脈を中心としたどっちかというと旧世代を感じさせる、保守的な雰囲気の作品が主催公演では並んでいるような感じがする。演目にあまり今の演劇の息吹が感じられないというか。