読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

劇団ロリポップチキン『悪と闘う!』

演劇
  • 作・演出:長谷川慶明
  • 音響:下重博資
  • 照明:高瀬勇佑
  • 舞台監督:吉川尚志
  • 制作:長谷川慶明
  • 演出助手:竹垣朋香
  • ダンス振り付け:むらさきしゅう
  • ドラマトゥルク:羽場雅希
  • 運営:藤池匡史
  • クレジット:石坂光
  • 出演:竹垣朋香(LollipopChicken)、むらさきしゅう、永瀬泰生、水野宏美、小枝瞳(劇団森)、中園紗緒里、岡野敦史、竹内拓也、川崎紘奈、狐崎崇史
  • 劇場:王子小劇場
  • 上演時間:90分
  • 評価:☆☆☆☆★

  この公演については稿を改めてしっかりとしたレビューを残すつもりである。ここに書くのはとりあえずの覚書だ。

 ロリポップチキン主宰の長谷川慶明は、武蔵大学で私の授業をとっていた学生ということもあり、昨年6月の旗あげ公演以来、全公演を見ている。長谷川は私が公演を見終わったあと、毎回劇場出口で私を呼び止め、感想を聞くというかわいげのある奴なので、私もいい気になって先生風を吹かせ、もっともらしい感想を伝えていた。

 しかし今回の『悪は闘う!』は公演を見た直後には感想のことばが何も思い浮かばなかった。王子小劇場の階段で観客を送る長谷川と会ったときに出てきたことばは、「長谷川、お前最高だよ!」だけだ。この作品で、私ははっきりとこの劇団を大好きだと言うことができるようになった。

 

 ロリポップチキンの持ち味は、気取った洗練とは無縁の荒削りなエネルギーだ。『悪と闘う!』は、どうしようない若い連中のもどかしさ、いらだち、希望、不安、欲望、孤独、とまどいなど様々な感情と状況が、新宿を舞台とする混沌とした劇時空のなかで表現される暗くて熱くて騒々しい青春群像劇だった。「悪って何だ?」それは登場人物たちにもはっきりとはわからない。とにかく彼らは不穏なものに絡み取られ、もがき苦しんでいる。重苦しい何かに押さえつけられているけれど、そこから抜け出す術を知らない。未熟で無力だけどちゃんと社会を見据え、対決しようとしている登場人物たちの健気さと悲壮さがたまらない。

 無残な挫折、甘美な抒情、社会への怒りといったあきれるほど陳腐な青春の主題が、堂々とまっすぐ圧倒的なエネルギーとともに提示される。いくつかのエピソードが交錯し、豊かな混沌を作り出す。各エピソードの密度はフェリーニの映画を連想させるところがある。勿論フェリーニよりもはるかにしょぼくてダサい。でも最高なのだ。小さな舞台で若い俳優たちがのたうちまわり、叫びながら、そのもどかしさを表現しようとする。言葉で表せない整理されない感情が、俳優の身体と声を通して伝わってくる。最後の場面にかすかな希望を漂わせるのも定型通りともいえる。しかし作品のエネルギーの強さが、その陳腐さを魅力あふれるものにしている。

 

 展開に停滞感がなく、退屈する時間がない。爆笑場面も多数ある娯楽性の高い作品でもあった。取り扱おうとしている主題は重く、その描き方は熱い、しかし劇団名が示すとおりの弾けるような明朗さにも満ちている。俳優たちの個性も際立っていたし、芝居もいい。まず女優が可愛い。ロリ系が3人はいずれも魅力的だ。劇団員となったヒロイン、竹垣朋香のエキセントリックなロリータぶりでちょっと鳥居みゆきを連想してしまった。脳性麻痺障碍者という難しい役を説得力ある表現で演じた小枝瞳の愛らしさ、「絶望を買う女」、水野宏美の硬質で虚ろな雰囲気もとてもいい。この作品で男優たちの芝居と存在はひたすらウザい。でもその暑苦しいウザさが、作品の内容に見事にマッチしている。肥満俳優、狐崎崇史の体をはった演技には何度か爆笑した。縄跳びがへたくそなダメボクサー、岡野敦史と車椅子の障碍者、小枝瞳の恋の場面はベタベタの定型なのだけれど、そのリリシズムの濃厚さには思わず心動かされた。

 独創的で前衛的なスペクタクルはこの作品には一切ない。20代前半の若い作り手が己の未熟さと愚かさと滑稽さをしっかりと見つめ、自分の抱える切実な思いをここまでいさぎよく、真っ直ぐさらけだしているところがこの作品の素晴らしいところであり、すごいところなのだ。