2018年は119本の舞台作品を見ました。見た作品については、満足度を☆の数で評価しています。最高点が5つ星(☆☆☆☆☆)で、0.5点は黒星★。
5点(☆☆☆☆☆)が「素晴らしい!完璧!」、4.5点(☆☆☆☆★)「素晴らしい、けれどちょっとひっかったところもあった」、4点(☆☆☆☆)「大満足」、3.5点(☆☆☆★)「満足」、3点(☆☆☆)「まあ悪くない」、といった感じで、見た直後の印象の評価になっています。
昨年見た作品のうち5つ星評価は14作品でした。そして4.5点が21作品。おおむね4.5点以上だと、きわめて満足度の高い公演だったと言っていいでしょう。私の場合、その割合は総観劇数の約3割になります。
ただ振り返ってみると、高評価をつけた作品でもどんな作品なのかほとんど忘れているものもかなりあります。また見た直後は低評価でも、印象に強く残っている作品もかなりありました。
2018年の片山ベストテンを上げると以下の通りになります。
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赤門塾演劇祭『愛の乞食 他』@赤門塾
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劇団螺船企画公演『2018、孤児のミューズたち』@明治大学14号館演劇Bスタジオ
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劇団ぶどう座『植物医師』@劇団ぶどう座稽古場
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ゲッコーパレード『リンドバークたちの飛行』@早稲田大学演劇博物館
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ゴールド・アーツ・クラブ『病は気から』@彩の国さいたま芸術劇場
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iaku『逢いにいくの、雨だけど』@三鷹芸術文化センター星のホール
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ホエイ『郷愁の丘ロマントピア』@こまばアゴラ劇場
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ゴキブリコンビナート『情欲戦士ロボ単于』@小金井公園特設テント
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←ココカラ『ヤルタ・ゲーム』@アポロカフェワークス
埼玉県宮代町在住の演劇人、高野竜氏が主宰する平原演劇祭はいわゆる演劇という枠組みを超越したきわめてユニークな芸術表現ですが、昨年6月に横浜市の鶴見線浅野駅周辺で行われたオールナイト公演はまさに類例のない演劇体験でした。鶴見線は海浜工業地帯への通勤者のための支線で、そのただなかにある無人駅、浅野駅周辺は深夜にはほぼ無人地帯となります。『平原演劇祭2018第2部 奉納ヴィヨンの妻』は午前1時開演で、午前5時過ぎに終演。浅野駅周辺で移動しながら行われるいくつかのパフォーマンスを、20名ほどの観客が懐中電灯を片手にぞろぞろ追いかけながら見るというものでした。この公演のレポートは、http://otium.hateblo.jp/entry/2018/06/10/000000にあります。
赤門塾は在野の哲学者、長谷川宏氏が埼玉県所沢に1970年に開業した小中学生対象の学習塾です。現在は長谷川宏氏の息子の優氏が塾の経営と演劇祭などの塾行事を取り仕切っています。赤門塾では40年以上前から3月末に塾生や塾生OBたちによる演劇祭を行っています。小学生の部、中学生の部、高校生以上OBの部の三部に分かれた公演は、アマチュア演劇ながら演者の本気が舞台からほとばしる見ごたえのあるものでした。この演劇祭のレポートはhttp://theatrum-wl.tumblr.com/post/173166619826/にあります。
劇団螺船企画公演『2018、孤児のミューズたち』は明治大学の学生演劇サークルの公演でした。日本ではほとんど知られていないカナダのケベックの劇作家、ミシェル・マルク=ブシャールの傑作を、日本の大学生である自分たちの演劇として演じるためのさまざまな工夫がありました。原作の丁寧な読み込みを感じさせる優れた翻案劇になっていました。この公演についてはhttp://theatrum-wl.tumblr.com/post/171978186001/に劇評を掲載しています。
劇団ぶどう座は、岩手県西和賀町で半世紀以上にわたって活動している劇団です。『植物医師』は宮沢賢治作の短い作品ですが、この作品をこの劇団の稽古場で、 岩手の演劇人によって演じられるのを見ることで、いっそう味わい深い演劇体験を得ることができたように思いました。この公演は、西和賀の劇場、銀河ホールが毎年開催している演劇祭のなかで上演されました。演劇祭のレポートおよびこの公演の劇評は、http://theatrum-wl.tumblr.com/post/178069818651/に掲載されています。
ゲッコーパレード『リンドバークたちの飛行』は早稲田大学演劇博物館の空間の特性が十全に生かされた優れた演出でした。リンドバークを演じた女優、河原舞のありかたも印象的でした。
ノゾエ征爾が演出したゴールド・アーツ・クラブ『病は気から』は、数百人の素人老人俳優を舞台に上げるという画期的で独創的なアイディアの公演でした。大群衆老人俳優のパワーとカオスが作り出すエネルギーが圧巻でした。
昨年はiaku / 横山拓也の作品が数多く東京で上演され、この優れたストレートプレイの書き手が東京でも広く認知されるようになったように思います。横山戯曲はアクロバティックでスリリングな対話が、人間の心理の微妙な動きを丁寧に伝えるドラマティックな討論劇です。彼の作品には一つとしてつまらない作品はありませんが、今年上演された作品のなかで私が一本を選ぶとなると12月に三鷹で上演されたiaku『逢いにいくの、雨だけど』になります。
青年団所属の俳優の河村竜也と劇作家・俳優の山田百次によるホエイの『郷愁の丘ロマントピア』は、湖に沈んだ北海道の炭鉱町を舞台に地方の現代史を悲劇をしっかりと描き出す傑作でした。
ゴキブリコンビナートの公演は常に期待以上の過激さを見せてくれます。昨年に引き続き、小金井公園に設置された特設テント劇場での公演は、演者のみならず観客も身の危険を感じるスリル満点のスペクタクルでした。その破格にばかばかしく、壮絶な表現には、圧倒的な感動もあります。
←ココカラは小さなカフェを会場に、まだ日本に紹介されていない英語圏の現代作家の戯曲をリーディングのかたちで上演するユニットです。今回はアイルランドの劇作家、ブライアン・フリーるによるチェーホフ『犬を連れた奥さん』の翻案劇の上演でした。観客の想像力に訴えかけるリーディング公演ならでは醍醐味を味わうことのできる優れた演出でした。この公演のレビューはhttp://otium.hateblo.jp/entry/2018/07/13/000000にあります。
ベスト10に上げた作品以外にも言及しておきたい公演はいくつもあります。
SPACの公演では、SPAC俳優の牧山祐大演出による個人企画、『犬を連れた奥さん』(榊原有美、大高浩一出演)が印象に残りました。音楽の生演奏付きのチェーホフの短編小説の翻案でした。こうした小さい企画公演は今後もやって欲しいと思います。
東京外国語大学の学生劇団、劇団ダダンによる『つつじの乙女』も素晴らしい公演でした。信州の民話を取材した松谷みよ子の作品の翻案劇。恋の情念と狂気の物語でした。原作にはない外枠の設定もうまく機能していました。
島根県松江市で半世紀以上にわたって活動を続ける劇団あしぶえの代表作、『セロ弾きのゴーシュ』をこの劇団の本拠地であるしいの実シアターで見ることができたのも、忘れがたい演劇体験となりました。最小限の要素で構成された舞台美術、切り詰められた台詞のやりとりによって物語の本質を伝える緊張感に満ちた美しい舞台でした。
年末に行われたチンドンのまど舎の『中野チンドン劇場〜のまど舎創業五周年記念興行〜』はいわゆる演劇公演ではありませんが、ちんどんをベースにしたユニークでアットホームな和風レビューショーでしたた。観客がこれほど楽しそうな笑顔の公演はめったにあるものではありません。チンドンのまど舎のサービス精神にエンターテナーの魂を感じることができました。
5つ星評価:14作品
- 1/16 ホエイ『郷愁の丘ロマントピア』@こまばアゴラ劇場
- 2/10 劇団螺船企画公演『2018、孤児のミューズたち』@明治大学14号館演劇Bスタジオ
- 2/12 ハンブルク・バレエ団『ニジンスキー』@東京文化会館
- 3/24 赤門塾演劇祭『愛の乞食 他』@赤門塾
- 5/19 iaku『あたしら葉桜、葉桜』@こまばアゴラ劇場
- 5/27 ゴキブリコンビナート『情欲戦士ロボ単于』@小金井公園特設テント
- 6/7 日本のラジオ『ツヤマジケン』@こまばアゴラ劇場
- 6/9 平原演劇祭『平原演劇祭2018第2部 奉納ヴィヨンの妻』@鶴見線浅野駅周辺
- 7/14 ←ココカラ『ヤルタ・ゲーム』@アポロカフェワークス
- 7/24 Ensemble Pygmalion『魔笛』@Grand Théâtre de Provence@Aix-en-Provence
- 9/2 劇団ぶどう座『植物医師』@劇団ぶどう座稽古場
- 9/28 ゴールド・アーツ・クラブ『病は気から』@彩の国さいたま芸術劇場
- 10/17 ゲッコーパレード『リンドバークたちの飛行』@早稲田大学演劇博物館
- 12/8 iaku『逢いにいくの、雨だけど』@三鷹芸術文化センター星のホール
4.5星評価:21作品
- 1/1 地点『どん底』@アンダースロー
- 1/14 SPAC『しんしゃく源氏物語』@静岡劇術劇場
- 3/11 榊原有美、大高浩一『犬を連れた奥さん』@静岡芸術劇場一階ロビー特設ステージ
- 4/8 ITOプロジェクト 糸あやつり『高丘親王航海記』@ザ・スズナリ
- 4/28 たきいみき、奥野晃士、春日井一平『寿歌』@野外劇場「有度」
- 5/24 iaku『粛々と運針』@こまばアゴラ劇場
- 5/25 iaku『梨の礫の梨』@こまばアゴラ劇場
- 5/26 iaku『人の気も知らないで』@こまばアゴラ劇場
- 5/31 田上パル『Q学』@アトリエ春風舎
- 6/19 劇団ダダン『つつじの乙女』@東京外国語大学
- 6/29 モメラス『青い鳥 完全版』@STスポット
- 7/6 Kawai Project『ウィルを待ちながら』@こまばアゴラ劇場
- 7/20 Anne-Cécile Vandalem『Arctique』@La Fabrica@Avignon
- 7/22 Les Bâtards Dorés『Méduse』@Gymnase du Lycée Saint-Joséph@Avignon
- 9/1 劇団田中直樹と仲間たち『水仙月の四日』@Uホール
- 9/8 平原演劇祭『嵐が丘』@BUoY
- 9/23 劇団あしぶえ『セロ弾きのゴーシュ』@しいの実シアター
- 9/24 モメラス『反復と循環に付随するぼんやりの冒険』@BUoY
- 11/18 さいたまネクスト・シアター『第三世代』@彩の国さいたま芸術劇場 NINAGAWA STUDIO
- 12/2 新生 若獅子『上州土産百両首/蛍―お登勢と龍馬―』@シアターΧ
- 12/14 チンドンのまど舎『中野チンドン劇場〜のまど舎創業五周年記念興行〜』@なかの芸能小劇場