閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

負け犬の遠吠え

酒井順子(講談社,2003年)
負け犬の遠吠え
評価:☆☆★

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類いまれなる観察力と巧みな文章で,ちまたの人間の無防備な自意識(のなさ)を辛辣に抉るのが彼女の持ち味.昨年出版されて流行語にもなった「負け犬の遠吠え」だが,面白くは読めたものの(「イヤな汁」という表現は使ってしまいそう),決して広いとは言えない己を中心とする日常性というしばりのなかで作物を提供しなくてはならない酒井は書き手としてかなりキツイところにいるのではないか,ということも感じてしまった.こうしたスタイルで一貫して高校時代から20年間コラムの書き手として活躍しているというのは,驚嘆すべき才能であると思う.ただこのところ集中的に彼女の著作を読んだ僕には,最近の彼女の著作は意地悪さがいやーな感じで読後によどんだように残るものの,文章の切れは落ちているような気がする.というか年相応に文章も「おばさん」臭くなり,ねっとりとした湿り気をおびるようになってきているような気がする..
「負け犬」という呼称は,彼女たち(そして酒井の)生活の実態はたとえ優雅で劣等意識とは無縁のものであったにせよ,あまりにも自虐的に響き,繰り返されるとちょっと笑えないところがある.