閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

親の「ぼけ」に気づいたら

斎藤正彦(文藝春秋,2005年)
ISBN:416660424
評価:☆☆☆☆

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各章の冒頭はケーススタディでアルツハイマーの進行の過程とその周囲の家族のとりくみを物語仕立てで描き,その後で痴呆進行の各段階の解説と家族の取り組みのほかの例を紹介する.著者は「ぼけ」の臨床に携わっている精神科医.家族にアルツハイマー患者が出た場合にとりうる具体的な方策が示されてる.読み進めていくうちに自分は親に痴呆を見いだしたとき,こうした対応をとりうるだろうかなどと考え暗くなった.ぼけは誰にでも訪れうる.かつて自分を育ててくれた親が徐々に非人間化していく過程を確認することは,悲痛な体験に違いない.

先月末になくなった前の指導教授は,この本の記述から,典型的なアルツハイマーの進行の過程をたどっていたことがわかる.おそらく発病は退職の1,2年前からだろう.授業のすっぽかしがたびたびあったし,話がかみ合わないことも多くなっていた.もちろん今思えばというはなしで,当時はとまどいつつも週に1,2度しか会わない僕には異常の兆候には見えなかった.退職前10ヶ月はまともな教務・学務はほとんどできなかったのではないか.研究室明け渡しの前にも荷造りもできず研究室でひとりただぼおぉっと座っていた先生の姿を思い出す.