閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ミリオンダラー・ベイビー

http://www.cinecrew.co.jp/mdbaby/main/index2.html

ボクシング・トレーナーと女性ボクサーの間の父娘的な信頼感あふれる愛情を丁寧に描いた作品.「疑似家族」のつながりは,その虚構性ともろさゆえに,時に本当の家族関係より強固でドラマチックなものとなる.前半の女性ボクサーがチャンピオン・シップまで上り詰めていくシーンの充実感と幸福感に観客のこちらも胸躍る.このところアンハッピーエンドがつらくなっているので,「うーんこのまま最後までいって欲しいなぁ.でも途中でいきなり突き落とすだろうな」と思っていると案の定悲劇的事件が起こる.
登場人物の心理を淡々と丁寧に描く秀作.ただあまりにも痛々しい後半部は見るのがつらい.ラストはかすかな希望の兆候を暗示させるものだったが.
ボクシングの試合のシーンも迫力満点.
絶望と落胆の中で踏ん張り続ける女性ボクサーの姿にはすっかり感情移入してしまい,僕も一度くらいぼろぼろになるまでがんばる覚悟で論文に取り組もう,と,単細胞ぶりがなさけなくもあるけれど,思ってしまった.
オーソドックスな作りながら,しぶい演出の好篇で物語世界にすっかり没入してしまう.
題名の意味,アイルランド的な記号等の謎かけめいた仕掛けですっきり解けないものもあって若干消化不良も残る.
鑑賞後しばらくたってからいくつかの印象深いシーンが浮かび上がってくる.あのへろへろとしたタイツをはいた絶対にボクサーにはなれない男,この登場人物の存在は物語のコントラストをあたえ,作品に深い味わいを加えているように思う.僕が一番感情移入したのはあのへろへろタイツの男である.
才能に乏しく,将来の希望が閉ざされていても,自分の現在に対してはけなげで誠実でありたいものだ.