閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

津軽世去れ節

長部日出雄(文春文庫,1989年)
津軽世去れ節 (文春文庫)
評価:☆☆☆☆

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短編集.所収されている『津軽じょんから節』『津軽世去れ節』で1973年に直木賞受賞.作者は現在71歳のはず.近作としては太宰治の評伝を最近読んだが,寡作の部類だと思う.直木賞受賞作家で筆も達者で確かなわりには,点数が少ない.津軽の音楽家の壮絶な音楽人生を凝縮されているこの二本の傑作も現在品切れで図書館で借りるしかないはず.僕はたまたま近所の古本屋で文庫を見つけた.津軽三味線への関心,太宰評伝などで知ったこの著者の知的態度などから,この作品は前から読んでみたいものだったのである.
二作とも音楽の持つ悪魔的な魅力を巧みに描写.ただし『じょんから』の主人公は突然その悪夢から解放され,『よされ』の主人公は悪魔にとりつかれたまま破滅していく.
この二作以外も佳篇がそろう好短編集.ミステリーとしては謎解きがたわいないが,主人公が抱くほのかな恋情とコンプレックスの描き方が好ましい冒頭作『死者からのクイズ』,津軽でくすぶりつつもその奥底に熾火のような再起への野望を抱く屈折した男が主人公の『津軽十三蜆唄』『猫と泥鰌』,ゴミソ・イタコという青森独特のオカルト的風俗を軸に東京と故郷に引き裂かれる男の心理を描く『雪のなかの声』.
彼が監督した津軽三味線を題材とする映画『夢の祭り』もいつか見てみたい作品.長部の映画への造詣と愛情の深さについて,確か中野翠がエッセイの中で驚嘆していたはずだ.未読だが長部は映画関係のエッセイも多い.