閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

巷談宵宮雨

  • 作:宇野信夫
  • 演出:中野真希
  • 企画:宮城聡
  • 照明:大迫浩二
  • 出演:藤本康宏,石川正義,諏訪智美,本城典子,安齋芳明,高澤理恵
  • 場所:護国寺 和敬塾内(旧細川侯爵邸)和楽荘
  • 評価:☆☆☆☆★
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ク・ナウカ所属の若手演出家による1935年に書かれた歌舞伎の世話物狂言の翻案.会場となる和楽荘も始めていく場所で,どんな芝居になのか先入見なしの鑑賞.思いの外楽しめた舞台だった.和楽荘は,特徴的な行事や文化活動でも知られる私立学生寮,和敬塾の敷地内にあるこじんまりとした古ぼけた和風の平屋.観客席,舞台をあわせて三〇畳ほどの広さ.観客数は五〇名ほどだった.劇の筋は怪談話であり,小悪党の夫妻が欲にかられて行動することで,その欲心ゆえに大悪党の風格ある伯父の僧侶とその亡霊に翻弄される様を描く.
演技は軽妙な様式感のある動きと台詞回しが効果的に使われていて,役者もそれぞれ演出家の意図と要請にしっかりと答えている感じ.類型を演じつつも,まったく記号的な演技というわけではなく,人物の心理はさりげない写実的表現でさらりと示されている.全般に抑制の効いたセンスの感じられる演出だった.舞台上ではメッセージの七割だけをコンパクトに表現し,残りの三割を切り取ることによって雑味を排したという感じ.
劇場ではなく平屋の古い民家ということで照明などはかなり制限されたはずだけれども,冒頭の暗闇の中で複数の人物の声だけ進行する部分から(観客は耳をすまして声をおいかける),ぱっと明かりがついて太十夫妻の場面がはじまる演出は印象的だったし,その他にも少ないバリエーションの中で照明や舞台装置などの転換に工夫があって,単調さを感じることはなかった.むしろ和楽荘という日本家屋独特の雰囲気とあいまって,観客の想像力を刺激する舞台となっていた.
ふってわいた「幸運」に舞い上がり,欲に簡単に翻弄されてしまう人間の愚かしさと心理のゆれを軽妙に描く脚本も秀逸.歌舞伎版の舞台も見てみたい.
役者いずれも好演.異形の強欲坊主役の藤本康宏は強烈な印象を残すが,太十役の石川正義のテンポと軽みのある演技は見ていて心地よい.諏訪智美の着物姿は美しい.つりめのいかにも気の強そうなお姉さん.こんなお姉さんにいじめられてみたい.