SPAC
鼻ひげめがねで帽子をかぶった扮装で,編みかごを身体にまとったままちょこまかと鼠かゴキブリのように舞台を駆け回る「かご男」,神出鬼没の「かご女」,縦列を組んで舞台を進む「車いすの花嫁」など,詩的な隠喩が豊かな演劇的創意の数々に目を奪われる.
力強い台詞の朗唱も特徴的.しかし徹底して分解された上で複雑に再構成された原テクストは,写実を排した演劇的身体表現の道具と化し,本来持っていた文学的なニュアンスが犠牲になっているような気がした.
今回の公演は原作がチェーホフの戯曲だけに,演出家の自己顕示ばかりが強調される今日のような演出には抵抗を感じる.美しいハーモニーが不協和音の塊に変換されてしまったかのよう.斬新だが退屈な現代音楽を聴いているような感じ.