閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

傾城反魂香(けいせいはんごんこう)(『吃又』)

今日観た三つのプログラムの中では一番面白かった作品.ひどい吃りの絵師が「土佐」の名字を師匠に求め,最終的にはその願いが叶えられるというお話.三津五郎演じる吃又が秀逸.根深い劣等感を抱える吃又は,愚かにも切実な自己承認の欲求ゆえに,さらに吃る.その滑稽なうろたえぶりと浅ましい虚名へのこだわりはあざけりの的となる.死を決意して欲望から解放されてようやく彼は画人としての高い境地を手に入れることができた.師匠である将監はその境地を確認したとき,吃又に「土佐」の名字を与えることを許す.幕切れは脳天気な舞踊で,吃又は承認される喜びを素直に表出させる.からっとした後味のよい結末である.