閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

民衆の敵

燐光群
http://www.alles.or.jp/~rinkogun/minshuunoteki.html

  • 原作:ヘンリック・イプセン Henrik Ibsen
  • 脚本・演出:坂出洋二
  • 美術:島次郎
  • 照明:竹林功
  • 衣裳:宮本宣子
  • 出演:大浦みずき,中山マリ,鴨川てんし,川中健次郎,猪熊恒和,大西孝洋,江口敦子
  • 上演時間:二時間三〇分(休憩一〇分を含む)
  • 劇場:六本木 俳優座劇場
  • 評価:☆☆☆☆★
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昨日の円の公演に引き続いて二日連続のイプセン劇.衆愚の中での正義の問題という生真面目な主題ながら,昨日の円の新劇風リアリズムとは対照的なカリカチュアを強調した笑劇風のオーバーアクションによる社会風刺劇.
客演で主役を演じた大浦みずきの存在感が圧倒的である.派手な身体の動きは優雅で美しい.大浦みずきの存在によって,燐光群の役者たちのあくの強い演技の持ち味がかえってうまく引き出されていたような感じがした..特に幕間直後の幕,演説の場面での彼女の「格闘」ぶりは圧巻で,客席の観客も舞台上の現実の民衆に同化してしまうような錯覚を味わうことになる.
坂出洋二の翻案では舞台を現代の日本に移していたが,原作の持つ普遍的メッセージを効果的に生かした優れた翻案だと思った.
最終幕はシンプルながら力強い美しさに満ちた台詞が続く.多数派の反対に逆らい敢えて少数派の孤独の中に身を置き,正義を貫く精神には,独善と紙一重の危険性がある.しかし孤独の中に身を置き,自己の決断に責任を持つ覚悟と勇気は人の心を打つ高潔さがある.僕もそういった頑固な人間でありたい,と素朴な感情移入をしてしまう.
今日はプレビュー公演ということもあるからか,俳優座劇場には空席が目立ったのが残念.ここ数作の燐光群の芝居の中では僕は一番好きな舞台だ.「少数派の美学」を訴える芝居とはいえ,もっと大勢の観客に大浦みずきの凄さを味わって欲しい.