閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

早すぎる自叙伝 えり子の冒険

渡辺えり子(小学館,2003年)
早すぎる自叙伝 えり子の冒険
評価:☆☆☆☆

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聞き書きもしくは聞き書き風のスタイルで書いたのか.「です,ます」の口語体でときおり(笑)などが入る読みやすいエッセイ文体での自叙伝.直情径行ということばが似つかわしい渡辺えり子の言動の数々は,良い意味でも悪い意味でもきわめてナイーブである.優等生くささと説教くささ,過剰な自意識が鼻につくこともあるけれど,その思いの素朴さと力強さは人の心をなごませるようなほほえましさも備えている.文章ににじみ出る自己肯定感の強烈さと特異な自意識はやはり役者ならではといった感じがある.
彼女の「まっすぐ志向」は,その率直さゆえに,多くの人を傷つけたに違いない.この著作中で引用される彼女の罵倒のことばの激しさにはちょっとひいてしまうようなところもある.また自分をうらぎった人間,傷つけた人間への執念深さも相当なものだ.実名こそ挙げられていないが容易に特定できるかたちで,かなりの数の人間が彼女の少女っぽい倫理観によってやり玉に挙げられている.
演出家としての渡辺えり子を知ったのはごく最近である.中村勘九郎が勘三郎を襲名する直前の公演で,渡辺えり子作・演出の歌舞伎作品を歌舞伎座で上演したことを知ってから,興味を持ち始めた.主宰劇団である宇宙堂の公演は昨年秋,世田谷パブリックに観に行った『風回廊』.その前に新国立での喜劇短編オムニバス『コミュニケーションズ』を観たが,どちらの印象も今ひとつ冴えたものではなかった.