平田オリザ(白水社,2004年)
評価:☆☆☆★
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ここしばらく平田オリザ漬け.1982年に国際基督教大学に入学し,学内劇団として青年団を立ち上げ,現代口語演劇のスタイルを完成させ,それが世間に認められるようになった1992年頃までの十年間を記す自叙伝.平田オリザは少なくとも文章の中では社交的な「謙遜」とは無縁であり,その強烈な上昇志向と自己の才能への自負を臆すことなく語る.そのあからさまな自己愛と自己への信頼感の大きさにはたじろぐ.
スポーツマンとしての自分の姿を強調的に記しているのは,おそらく小柄な身体といかにもまじめそうな風貌から,虚弱な優等生として見られがちなことへの反発だろう.独力で自らの道を作ってきた強靱な精神力を持つ天才は「弱者の気持ちはまったくわからない」と言い放つ.この一見冷酷で傲慢な物言いは,逆に「弱者の気持ちがわかる」という傲慢さから自らを意識的に遠ざけるための方便だ.濃厚な時間を全力疾走するかのような充実した青春生活に大きな羨望を覚える.ああこういった青春もあり得るのだなぁとため息をつく.