井上ひさし,平田オリザ(小学館,2003年)
評価:☆☆☆☆
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
小学館が出している演劇雑誌『せりふの時代』に連載されていた対談記事を加筆のうえまとめた単行本.1996年から2001年に行われた13の対談が収録される.世代は異なるものの,現代日本を代表する演劇作家そして日本語の達人あるいは曲芸師である二人が「口語日本語」について対話するのだから面白くないわけはない.海外での自分の作品評価の無邪気な自慢や若干図式的に思える日本語の「論理性」についての言及など首肯しがたい部分もあるが,二人の演劇作法の違い,日常語と演劇語の相違点,戯曲創作上のルールの効用などの興味深い話題がわかりやすく語られている.
演劇のことばとしては近代以前には「語り物」としてのダイアローグしかもっていないかった日本が,近代以後,西洋演劇をモデルに「対話」の創造を目指して格闘するなかで新劇という独特のスタイルを生み出す過程についての議論がとりわけ私の関心をひく.蓄積された「語り物」藝の伝統財産の中から,ディアローグだけで構成された演劇作品を生み出したという過程は,中世フランス語演劇の揺籃期にも見られる現象だ.自立した演劇ディアローグがいかなる操作によって成立しうるのかという問いへの解答のヒントが両者の対談には含まれているように思えた.