閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

神の曲芸師

http://www.institut.jp/agenda/evenement.php?evt_id=1436
La Comédie Française présente Saint François, le divin jongleur de Dario Fo

  • 作:ダリオ・フォー Dario Fo
  • 演出:クロード・マチュー Claude Mathieu
  • 出演:ギヨーム・ガリエンヌ Guillaume Gallienne
  • 劇場:青山 銕仙会能楽研修所
  • 上演時間:80分
  • 評価:☆☆☆☆
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イタリアのノーベル賞作家、ダリオ・フォーの書いた一人芝居をコメディ・フランセーズの男優が演じる。上演時間80分。フランス語上演、字幕付き。
音楽は最後の何分間に使われるだけ。身振りと言葉で神の曲芸師こと、アッシジの聖フランチェスコの生涯が演じられる。

聖フランチェスコは十三世紀イタリアの聖人で、その名前を冠する托鉢修道会の創始者である。清貧の生涯を送った彼は、数々の絵画や音楽、映画の題材になっている。「神の曲芸師」はフランチェスコ自身が自称していたそうだが、何故に「曲芸師(ロッセリーニの映画では「道化師」)」と称していたのか、僕は知らない。13世紀に「聖母の軽業師」という、アナトール・フランスが翻案し、さらにマスネによってオペラ化されたフランス語の文学作品があるけれども、フランチェスコのこの渾名とも何か関係があるのだろうか? 軽業師は当時のフランス語ではジョングルール (jongleur)であり、当時この呼称で呼ばれていた旅芸人は曲芸のみならず、武勲詩や聖者伝などの文学作品の朗唱や演劇作品の上演、叙情詩の歌唱、楽器の演奏など幅広い芸能に携わっていた。

今日上演されたテクストは、大半は対話体で構成されていたものの、短い語りの部分も含んでいて、役者の表現方法も含め、往時のジョングルールの語りの技芸のありようを想像させるもので、僕にはとても興味深いものだった。観客への語りかけの部分に現代的な風刺が含まれることはあり、字幕の翻訳はときにポップな感じなものではあったけれども、全般に古風で素朴な「民衆」ぶりの内容と語り口であり、伝統的な口承文芸の型を踏まえたものであるように思えた。中世の語り物文芸の構成やスタイルをあえて模倣しているような印象さえ持つ。芥川龍之介の切支丹文体模倣の傑作、「奉教人の死」、「きりしとほろ上人伝」を連想する。

ダリオ・フォの作品はこれまで読んだことも見たこともなかった。今回の作品の原文は果たして「戯曲」の作りになっているのかどうか(ト書きの存在など)、彼の劇作と中世文芸との関わりなどについて今後確認してみたい。