閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

「ジョングルール─音の旅びと」中世ヨーロッパの放浪楽師

  • 演奏:ジョングルール・ボン・ミュジシャン

[http://blog.livedoor.jp/rausch5145pfeife/archives/1264912.html:title=ジョングルール・ボン・ミュジシャン公式ブログ:7/11 ジョングルールー

  • 会場:四ッ谷:絵本塾ホール(旧コア石響)
  • 出演:名倉亜矢子(歌、ゴシックハープ)辻康介(歌、語り)上田美佐子(中世フィドルほか)近藤治夫(バグパイプ、ハーディ・ガーディほか)
  • プログラム: エスタンピー等の舞曲、トルバドゥールの歌,カルミナ・ブラーナ聖母マリアのカンティガなど。
  • 上演時間:2時間
  • 評価:☆☆☆☆
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ジョングルール・ボン・ミュジシャンによる中世ヨーロッパの世俗曲のコンサートに娘といっしょに行った。

ジョングルール・ボン・ミュジシャンは、ヨーロッパ中世に使われていた古楽器を復元し、ジョングルールと呼ばれていた中世フランスの放浪の楽師のスタイルで当時の世俗歌曲、器楽曲を演奏する団体だ。ジョングルールは音楽演奏だけでなく、お芝居や聖者伝、武勲詩、物語など語り物の朗読も行っていたが、この団体のコンサートプログラムにも古楽器伴奏付きの語り物が含まれる。語り物や一部の歌曲は日本語訳で歌うのもこの団体の特徴だ。演奏者の服装も中世風の洒落たデザインなもので、演奏者は役者ながら中世楽師になりきり演じることによって観客を楽しませる。音楽だけでなく演奏に付随する雰囲気も含めて中世楽師のパフォーマンスを再現するという趣向がユニークだ。

オープニングの演出が秀逸だった。一人の楽師が観客のなかに分け入り、木製の長いラッパを吹き鳴らそうとする。何回か鳴らすのを失敗して観客の笑いをとったあと、ラッパの音が鳴ると後方から他の楽師たちが演奏しながら入場してくる。全員が揃うと「語り手」が観客に口上を述べたあと、ジョングルールと関わりを持つ聖母マリアが行った奇跡を歌う物語風の歌の演奏がはじまった。

トルバドゥール、トルヴェールによる中世の世俗歌曲は単旋律歌曲が中心なので、中盤に何曲かオック語の原語によるトルバドゥール叙情詩歌曲が続くとちょっと単調で退屈に感じてしまうところがあった。美しいゆったりとした旋律であるだけになおさら。モテや十四世紀のマショーのバラード、ロンドーなどのポリフォニー歌曲が入れたら変化があってよかったかもしれない。あるいは抒情歌曲だけでミュージカル風の物語仕立てにするとか。

休憩をはさんで後半にはグリム童話の語りも入り、プログラムに変化をつけていた。全体的には多彩で密度の濃い2時間の中世を楽しむことができた。
個人的にはもっと徹底して「演劇的」な演出で全体を構成したほうが面白いかもしれないなと思った。乗り切れないと観客がひいてしまうかもしれないが。十三世紀の田園牧歌の音楽劇『ロバンとマリオン』をこの団体がいつかとりあげてほしい。