閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ザザンボ

おどろおどろしい文字が躍るポスターをゲリラ的に街中に張って上映会の告知を行い、反道徳的なスキャンダラスな内容のドキュメンタリー・タッチの作品で知られている渡辺文樹監督だが、その作品を観たのは今日が初めてだった。ミクシィのコミュニティで上映会情報を知る。100人以上の観客が集まっていた。観客層は学生の映画オタクが中心のよう。上映会の取り仕切りも渡辺文樹自らが行う。映写機を操作するのも彼だ。今日は映像が若干斜めに傾いていたが。
上映開始前に10分間ほどの、かなり長い時間、渡辺文樹監督自身による自作解説があった。撮影の契機とか、モデルになった事件についてとか。『ザザンボ』は、福島方言で「お葬式」の意味だとのこと。
福島県の田舎町で、旧弊な価値観に支配された一族によって若干知能障害がある少年が自殺に追い込まれ、真相を知った教師が迫害を受けるという内容。監督自身が教師役で出演している。役者は素人ばかりで演技がいずれも固い。プロであるはずの監督の演技もかなり下手。話の展開はひとりよがりの飛躍が多くわかりにくい。何度か睡魔に襲われる。
田舎の旧弊を差別的視点で嘲笑・攻撃するのは定型的であり、特にここ数ヶ月の間に、サンプルの『シフト』、山下淳弘監督の『松ヶ根乱射事件』、ポツドールの『激情』とこの定型を用いた傑作を立て続けにみたため、新鮮味にとぼしかった。実際におこった事件をモデルとしているだけに、上映当時はかなりの話題性を持ったのかもしれないが。本家、分家の親戚関係のうっとうしさや、親族間の対立は、僕の父方の田舎の様子を彷彿させる。祖母がぼける直前に語ってくれた話の中には、昔の田舎特有の陰惨さをうかがうことのできるものもあった。ポツドールの作品スタイルは、渡辺文樹のスタイルを演劇的なかたちで洗煉させたようにも思える。
「各会場失神者続出」という惹句には偽りあり。グロテスクで直裁的な描写はあんまりない。主題の切り取り方はセンセーショナルではあるけれど、作品自体は予想していたよりかなり地味だった。原一男的なふんいきも若干あるが、内容のインパクトは原作品のほうが強烈だ。
明日、渡辺文樹監督の別の二作品を観る予定。