閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

バベル

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あまり期待せずに観に行ったのだが、思いの外優れた作品であり大きな満足感を得ることができた。
作品の作りの知的な抑制された雰囲気が勝ちすぎて、ぐいぐいと観客を引き込むようなエネルギーには乏しいのだが、展開の因果関係がよく練られている上、演出も丁寧なので、そのドラマティックな展開にもかかわらず各エピソードには非常に説得力のあるリアリティがあった。
タイトルが示唆するように言語コミュニケーションの不全が作品のテーマである。緩やかな連関を持つ日本、モロッコ、メキシコの三カ所で起こった事件が再現される。登場人物たちはコミュニケーション不全が原因で躓く。しかしその躓きの深刻さを最初はしっかりと認識できていない。時間がたつにつれどんどんと彼らは悲劇的、絶望的な状況へと心ならずも導かれていく。各パートは互いに共鳴し合い、深い余韻を生じさせる。
絶望的な出口なしの状況には最後の最後にかすかな希望の光を与えられる。その光はか細く頼りないものではあるけれど、不幸な登場人物たちに確実な救いをもたらすものである。
あまりに知的に構築されすぎ、細部まできっちり作ってあるがゆえに、多少説明過剰に感じられるところが難かもしれない。テーマの割にはスタイリッシュな作りゆえ、鑑賞後の感覚が「軽い」のだ。
アカデミー賞助演女優候補となり話題になった菊地凜子は聾唖の少女を演じるが、東京パートがドラマという点では最も日常的な状況を再現していたのにもかかわらず、候補にふさわしい存在感を示していたように思う。


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