- http://ameblo.jp/biorocca/
- 作:ゲオルク・ビューヒナー
- 翻訳・台本・演出:石見舟
- 照明:辻智之、浅野真純
- 照明・操作:あんとん
- 制作:辻智之
- 音響操作:浅野真純
- 作曲:ヘロニモ・エスケル
- 効果音作成:千野ほなみ
- 小道具:清水美江
- 衣装:山澤紗江子
- パンフレット:黒川さゆり
- 記録:井上良
- 出演:石見舟、小林由佳、田村奏子、朴建雄、林沙羅、廣田侑奈
- 劇場:阿佐谷 ART THEATER かもめ座
- 上演時間:75分
- 評価:☆☆☆☆
戯曲勉強会ビオロッカは東京外大の演劇サークル劇団ダダンを母胎とする勉強会とのこと。勉強会という名前だけれど、公演も行う。『ヴォイツェク』に関わる勉強会を三回開催して、その延長線上で今回の公演を行うことになったと当日パンフレットにはあった。勉強会という名称から、学生によるリーディング公演のようなものを想像していたのだが、しっかりと演出された本格的な公演だった。
戯曲を読み込んだことをうかがうことができる公演だった。『ヴォイツェク』は未完の戯曲で、順序については研究者によって見解が異なる断片的なエピソードから成っている。エピソードのつながりは空白が多くてあいまいで、その配列については上演者に委ねられているとも言える。各エピソードの内容自体も状況がよくわからないところが多い。ただ各場面で提示される言葉のやりとり、モノローグには、意味不明ながら強力な詩的喚起力がある。今回の上演ではその断片的な言葉の連なりから浮かび上がるイメージが、丁寧に、そして素直に舞台上に再現されていた。暗闇の空間のなかでぼんやりと浮かび上がる狂人の静かで絶望的な妄想といった趣きがあった。
この不気味でロジックがはっきりしない混沌を、『ヴォイツェク』を知らない観客たちはどのように受けとめたのだろう。昨年9月の古典戯曲を読む会で、私はこの作品を精読していたので(昨年の「ヴォイツェク」を読む会には石見氏も参加していて、読解のガイドとなる幾つもの興味深い深い指摘を与えてくれた)、今日の舞台で再現されている情景がテクストそのものから、丁寧に取り出されたものであることがわかった。そしてその不可解な風景の連続を、そのようなものとして、楽しんでみることができた。混沌と狂気と不安で満たされた世界である。
俳優たちの演技もよく練られていたように思う。とりわけ石見舟が演じたヴォイツェクの人物造形が強烈な印象を放つ。空虚で、始終怯えていて、そして焦燥している。テクストから立ち現れるヴォイツェクはまさにあのような人物ではないか。あのヴォイツェクには、われわれの生にともなうあらゆる不安が凝縮されているかのようだった。