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- 原作:ガルシア・マルケス
- 作者: ガブリエルガルシア・マルケス,G.ガルシア・マルケス,鼓直,木村栄一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1988/12
- メディア: 文庫
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- 脚本:坂手洋二
- 演出:蜷川幸雄
- 音楽:マイケル・ナイマン Michael Nyman
- 美術:中越司
- 照明:原田保
- 衣裳:前田文子
- 出演:美波,中川晃教,瑳川哲朗,國村準
- 劇場:大宮 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
- 上演時間:3時間55分(休憩15分,10分)
- 評価:☆☆☆☆★
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坂手脚本,蜷川演出,ナイマン音楽という異色の組み合わせによるマルケスの中編小説の演劇化.マルケスの小説の描写の濃厚な文学的イメージとがっちり格闘して作り上げたように思える重厚で濃密な演劇的イメージに満ちた充実感ある舞台だった.
多彩な照明効果を駆使した視覚的表現の豊かさにまず圧倒される.神秘的な魅力で多くの男たちを虜にするエレンディラの娼家となるテントの周りの縁日のような空間のイメージ喚起力の強さが印象的だった.
舞台空間の奥行きの深さを最大限利用し,スケール感のある舞台空間を作り出すことに成功している.美術や照明も極めて饒舌なため,広々とした舞台空間にもかかわらずがらんとした感じが全くしない.これでもかこれどもかといった具合に様々なイメージを重なっていく.オープニングでナイマンのテーマ曲にのって,舞台奥から群衆が中央に列を作って登場するシーン(同じようなシーンが各幕冒頭で繰り返される)やエンディングの海のシーンの大きさと美しさは圧巻だった.
タイトルロールを演じる美波が素晴らしい.出し惜しみのない堂々したぬぎっぷりは賞讃に値する.そしてそのバストの美しいこと.祖母への借金という負い目から,エレンディアは娼婦となる.その神秘的な美貌ゆえにエレンディアは行く先々で男を虜にするが,何千もの男に体を売っているにもかかわらず,そして裸体を舞台上で惜しげもなくさらしているにも関わらず,美波演じるエレンディアは,セクシャルな魅力とともに無垢で清らかなオーラを失うことがない.
エレンディアの祖母を演じた瑳川哲朗も素晴らしかった.孫娘を娼婦にしたて,金を搾取する悪徳のかたまりのような人物にもかかわらず,この迫力ある祖母にはそうした悪徳を包み込んでしまうような大らかな精神の強靭さが感じられる.エレンディラはこの祖母の強力な吸引力から逃れ出ることができないのは,必ずしも恐怖からだけではない,この人物の持つ底知れぬ魔術的な魅力によるものであることが伝わってくる怪演であった.
中川晃教は人気ミュージカル俳優だが,そのビブラートが常にかかる歌唱法,演技とも僕は好きになれないし,評価できない.ミスキャストだったと思う.
うねるようなエネルギーに満ちたマルケスの世界の暑苦しさを見事に演劇化した見応えのある舞台だった.久々に演劇らしいダイナミックな幻影に体の芯から陶酔することができたように思う.
せつなく若い恋の追憶が,壮大な叙事詩的世界と対比する様が演劇的に提示されたラストシーンはとりわけ感動的で,涙が止まらなかった.