閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

眠りオルゴール

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唐組 第40回公演

  • 作・演出:唐十郎
  • 作曲:大貫誉
  • 美術:劇団唐組
  • 出演:唐十郎、藤井由紀、久保井研、稲荷卓央、丸山厚人、高木宏
  • 上演時間:2時間10分(休憩10分)
  • 劇場:雑司ヶ谷 鬼子母神特設テント
  • 評価:☆☆☆☆
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物語の展開はいつものとおり僕にはさっぱり理解できない。よくもまあこんな荒唐無稽な物語を作ることができるものだと半ばあきれつつも、感心してしまう。訳が分からなくて面白くないかといえば、ちゃんとおもしろい見世物に仕上がっているのが唐作品の不思議なところだ。大いに観客を笑わせ、楽しませ、観客の想像力を遊ばせてくれる。膨大で急速なことばが作り出すイメージの連鎖に身を委ねていれば、たとえ一つ一つのイメージをしっかり咀嚼することができなくても、芝居見物の大きな醍醐味を味わうことが出来る。
場面と場面をつなぐロジックは突飛で意外性に満ちている。しかし唐の芝居の場合、その意外性はたいていシュールリアルズム的なユーモア、もしくは記憶やノスタルジーと結びつく叙情的連想として連なっていく。ことばの情報量の多さゆえ、ぶつかり合う場面が生み出すイメージをはっきりと捉えることができないこともある。次々と繰り出されることばは、水面に石を投げたときに次々と生まれる波紋のように、観客の心の中で関わり合う。こうした詩的な波紋に陶酔できるかどうかが、唐作品を楽しめるかどうかの分かれ目であるように思う。話者の台詞の交替にあわせめまぐるしく変化するBGMや照明、記号的に「貧しい過去」を表象する美術も、唐テクストのイメージの豊饒さを支える重要な要素となっていることは言うまでもない。そしてテントという芝居空間が作り出す一体感の心地よさ。
僕がこれまで演劇をほとんど観たことのない人を芝居に誘うなら、唐組のテント芝居に連れて行きたい。そこには日常と隣接しつつも日常ではまず味わうことの出来ない、怪しさと猥雑さ、非日常的な愉しみにあふれた独特の空間と時間が存在するからだ。