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- 作:ヤスミナ・レザ
- 演出:天願大介
- 翻訳:阿部崇・宮川知子
- 美術:加藤ちか
- 衣装:原まさみ
- 照明:大野道乃
- 舞台監督:笠井隆行
- 出演:鰐淵晴子、毬谷友子、月船さらら、中嶋しゅう、村上淳
- 上演時間:2時間45分(休憩15分)
- 劇場:森下 ベニサン・ピット
- 評価:☆☆☆☆
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『スペインの芝居』という作品を演じることになった役者たちの独白、『スペインの芝居』、『スペインの芝居』の登場人物の一人が演じることになっている『ブルガリアの芝居』の断片の三層の入れ子構造の作品。作品の中心は、劇中劇、二番目の枠組みである『スペインの芝居』にある。一番外側の枠組みは、『スペインの芝居』を演じるにあたっての役者たちの注釈、そして個人的な演劇観を語ったものとなっている。一番内側の3層目の枠組みとなる『ブルガリアの芝居』に関係するのは、『スペインの芝居』の5人の登場人物のうち、あまり成功しているとはいえない更年期の女優と数学教師をやっているその夫の二人だけとなっている。しかし作品全体のエピローグとしておかれているのは『ブルガリアの芝居』の一シーンだった。『ブルガリアの芝居』で落ち目の舞台女優が演じるのは、個人教授のピアノ教師の役である。夫は妻の練習につきあわされ、そのピアノ教師にピアノを習う中年男の役を演じる。この中年男は熱心な弟子ではない。惰性でピアノのレッスンを受けているようなだらしない男だが、もう若くはないピアノ教師はこの男に恋愛感情を抱いている。
三層の芝居の境界がはっきりと明示されることがないまま、役者はこの3つの次元を自在に行き来し、奥行きのある物語を組み立てていく。場面が流れるように連結し、停滞を感じさせない演出だった。2時間半を超える時間が長く感じられない。
かろうじて維持されてきた家族関係が崩壊しつつある、その瞬間を描いたパセティックなドラマが基調にあるが、多彩な技能で観客を楽しませる毬谷友子をはじめ、堅実な演技力を持つキャストのアンサンブルによって、作品は陰鬱さを免れ、悲劇的な状況は喜劇的な軽やかさの中でスマートに提示されているように思った。シックで大人っぽい雰囲気に満ちた充実した味わいの作品だった。